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高村ゆかり教授「気候変動対策とエネルギーセキュリティは表裏一体」(前編)

 



気候変動問題が深刻化するなか、パリ協定では、世界の平均気温上昇を「1.5度」以内に抑えるため、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを目指しています。一方で、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で、日本をはじめ世界各国でエネルギー危機に陥っています。エネルギーの最新事情とカーボンニュートラルについて、高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授にお聞きしました。その内容を2回に分けてご紹介します。



高村ゆかり(たかむら・ゆかり)

東京大学未来ビジョン研究センター教授。京都大学法学部卒業。一橋大学大学院法学研究科博士課程単位修得退学。龍谷大学教授、名古屋大学大学院教授などを経て、2019年4月から現職。専門は国際法学・環境法学。中央環境審議会会長、東京都環境審議会会長、再生可能エネルギー買取制度調達価格等算定委員会委員長、アジア開発銀行の気候変動と持続可能な発展に関する諮問グループ委員、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)評議員なども務める。

 

「電力ひっ迫」問題が問いかけたもの

3月に初めて「需給ひっ迫警報」を発令された

―2022年3月22日に東京電力・東北電力管内で電力需給ひっ迫が発生し、日本政府は初めて「需給ひっ迫警報」を発令しました。なぜ電力需給ひっ迫が起きたのでしょうか。エネルギーを巡りどのような問題が起きているのか教えてください。

まず電力ひっ迫の問題は、何か一つの単純な理由があって起きたわけではありません。3月の電力ひっ迫に関していえば、通常は想定されない事象がいくつか重なったことで、発生しました。

1つ目は、3月16日夜に発生した福島県沖地震の影響で、火力発電所が稼働停止したことです。2つ目は、3月にもかかわらず真冬並みの寒さで、電力需要が大幅に増加しました。

3つ目は、冬の高需要期(1、2月)終了に伴って行われる発電所の計画的な補修点検に重なったこと。そして4つ目に、火力発電所のリプレース(建て替え)と同時期だったことが挙げられます。

電力の需給ひっ迫は、こうした普通では起きない事象が重なって発生したものですが、私たちにエネルギーに関する根本的な問いを投げかけました。

そもそも発電のキャパシティが十分にあるのかどうか。競争を促すことで効率性向上やコスト削減を図るために、2016年4月に電力小売全面自由化が始まりましたが、どれほどの効果を上げられたのでしょうか。私たちはこうした問題に向き合う必要があるのです。

もう一つ、エネルギーの構造的な問題として、国際情勢に影響されてエネルギー源を確保できていないことがあります。タイミングや対象は国によって異なりますが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、日本を含め各国政府は、石油、石炭、ガスなど化石燃料を制裁の対象にしました。

3月の電力ひっ迫自体には、ウクライナ侵攻の影響はありませんでしたが、収束の見込みが立たない今、冬の電力需要にどう応えるのかが当面の課題になるでしょう。

 

――化石燃料が不足し、電気やガス料金が高騰しています。

エネルギーがなくなれば、私たちの生活や経済が回らなくなるのは明白です。当面のエネルギーをどう確保するかは重要な課題ですが、やはり中長期的な観点を忘れてはいけません。

1970年代、オイルショックの影響を受けた日本は、1979年に「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法)を制定しました。それ以来、エネルギーの調達の多様化は少しずつ進んできました。ロシア産以外の燃料の多様化も進んでいます。

しかし、外の化石燃料に依存している構造的な弱さから、目を背けてはなりません。国内外での変化に対応し、中長期的な視点でよりロバスト(頑強)なエネルギーシステムの構築が必要なのです。

新たに発電所を建てるにしても、10年単位の時間がかかることですから、いまから取り組まなければいけません。

 

――日本政府は2021年10月、「第6次エネルギー基本計画」を閣議決定しました。エネルギー基本計画のポイントについて教えて頂けますか。

やはり「脱炭素」です。日本政府は2020年10月、「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。エネルギー基本計画では、2030年度の総発電量に占める各電源の割合(電源構成)として、火力発電41%(LNG20%、石炭19%、石油など2%)、再生可能エネルギー36~38%、原発20~22%、水素・アンモニア発電1%を目指しています。

2020年時点で再エネの割合は2割弱ですので、それを2030年までに約2倍にするということになります。

 

――思い起こせば、2011年に東日本大震災とそれに伴う福島の原発事故、2018年には北海道胆振東部地震の影響で大停電が起こりました。2022年に入り、電力ひっ迫も発生し、エネルギー危機に陥っています。中長期的な視点に立って、ロバストなエネルギーシステムとはどういうものか、改めて考え直す時期に来ているのでしょうか。

足元のエネルギーをかき集めるだけでは、もたないと思います。2017 年に「広域系統長期方針」が策定され、地域間の電力融通を実現するために、地域間連携設備の増強などが進んでいますが、少なくても10年はかかります。

日本全体のエネルギーシステムを頑強にするには、やはり時間がかかるということを認識し、早くから取り組んでいく必要があります。

 

――どのようにロバストなエネルギーシステムを構築していけば良いのでしょうか。

一つは、省エネや効率化などでエネルギー需要を減らすこと。もう一つは、できるだけ国産のエネルギーを増やすということ。この2つに尽きます。

第6次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーを主力電源にするということが打ち出されていますが、やはり再エネを増やすことは重要です。再エネの強みは、自分たちで調達できて、小規模で分散しているという点です。

「再エネは高い」と刷り込まれてきましたが、発電コストは下がってきています。経済産業省は、2030年には太陽光発電の発電コストが電源別で最も安くなると試算しています。また、秋田県沖・千葉県銚子沖の洋上風力の平均入札価格は、1キロワット時あたり20円を下回りました。

発電コストの低下と合わせて、分散型のエネルギーシステムを支える技術も出始めています。

再エネへの転換は、気候変動対策そのものでもあります。知り合いの欧州の研究者は「気候変動対策は、気候変動対策のためだけではなく、エネルギーセキュリティ(安全保障)の問題としても重要である」と強調しています。

 

東京都が助成制度拡充し、再エネ転換を支援

東京都は、太陽光パネルなど再エネ発電設備を整えるための助成制度を拡充している

 

――気候変動対策とエネルギーの安全保障は表裏一体ということですね。

そうです。気候変動対策はコストメリットがあり、エネルギーセキュリティにも貢献するものなのです。

例えば、東京都は、建築事業者らに対し、住宅などの中小新築建物に太陽光パネルの設置を義務付ける条例改正を進めています。住宅購入者は、設置するかどうか選択できます。初期投資はかかるかもしれませんが、エネルギー価格が高騰しているなかで、自前でエネルギーを調達できれば、その分エネルギーコストを抑えられます。

東大大学院の前真之准教授は、都の補助制度を利用すれば、売電などで、約6年半で設置費が回収できると試算しています。

東京都は現在、脱炭素化とエネルギーの安定確保のため、助成事業を拡充しています。民間事業者や都内区市町村が再エネ発電設備などを整える場合、2分の1から3分の2以内の補助金が出るのです。

こうした制度をうまく活用しながら、再エネに転換していくことは、経営や家計を守るとともに、結果的に気候変動対策にもつながっていきます。