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【連載】中小企業M&A(第3回)「後継者候補『子』『社員』『後継社(M&A)』を比較する」

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事業承継の検討を始める際に、“子を後継者に指名すること”から考え始めてよいのでしょうか。今回は、超高齢化社会の時代において、どのような検討手順が良いのか考えてみたいと思います。

私は長年事業承継型のM&Aのお手伝いをしてきましたが、殆どのご相談者は下記のような経緯を経てM&Aの検討に至っていました。

①    子(又は親族内)で後継者候補を探索し打診

 これで候補者がいない場合に、

②    社内若しくは取引先で後継者候補の探索と打診

 そしてこれでも候補者がいない場合に、

③    M&A(第三者承継)の検討


要は、まずは親族内で後継者を探して、適合者がいない場合は近隣の方で探索、誰もいないから“仕方なくM&A”というご相談者が多い傾向にあります。

先でも触れましたが、現在の日本は超高齢化社会です。高度成長期の頃のように親族内に後継者候補は少なくなっているのが現実です。東京商工会議所が2021年2月に公表した「事業承継の取組と課題に関する実態アンケート報告書」によると、親族外の承継割合が近年増えてきていることがわかります。言い換えれば、社会情勢の変化や事業承継支援制度の拡充により、子への承継が必ずしもベストではないということです。

つまり、どうすべきかいうと、これからの事業承継の後継者探索は ①親族  ②社内 ③M&A を、専門家を交えて同時並行で比較検討すべきだと考えます。


<事業を引き継いだ時期別「先代経営者との関係」>

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出典:東京商工会議所「事業承継の取組と課題に関する実態アンケート報告書」P23

 

実は、当社には数年前に事業承継で会社を引き継いだ2代目の経営者の方からのご相談が増えています。例えば“数年前に会社を継いだが、自分では会社を成長させられない、M&Aで自社を成長させられる企業にグループ入りしたい”というものです。

このような相談者の多くが”長男だから継がないといけない”と考えていたそうです。大手といわれる会社を辞めて家業を継いだ方もいらっしゃいましたが、お話を聞くと自分が継ぐにあたってM&Aは全く検討しなかったとのことでした。あるご相談者は“家業がM&Aで譲渡できることを知っていたら以前勤めていた会社を辞めなかった”という方もいらっしゃいました。

M&A事例 長男が会社を継ぐも、会社と家族の将来のためM&Aを決断

先日もこんな事例がありました。
都内の印刷業者がM&Aで譲渡をしたいとの事でお会いしました。ご相談に来られたのは社長と取締役のご子息でした。ご子息は2年ほど前に会社を継ぐために大手商社を退職し、入社後は、事業計画を立案するなど大手のノウハウを用いて会社をより大きなステージに引き上げるべく努力していたのですが、自分から父親にM&Aを提案し、ご相談に来られました。

ご子息は厳しい表情で理由をお話になられましたが、主な理由としては大手商社でのやり方が実家の印刷業の社員には受け入れられなかったようです。当然資本の面でも大きな違いがあったのは言うまでもありません。

この様に大企業での経験豊富なご子息がいるからといって、家業の事業承継が成功するかはわかりません。このご子息もM&Aを知っていたら継いだかどうかはわからないとおっしゃっていました。
ご子息はM&Aを実行した後にまた元の大手商社に復帰することができましたが、そうでなければと思うと少し怖いですね。

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この事例のように“優秀な長男がいるから大丈夫!”と事業承継の選択肢を狭めてはいないでしょうか。これからの事業承継は親族を中心に検討するにしても、M&Aも含めたすべての選択肢を比べ、継ぐ方にも多くの選択肢を示し後悔のない承継方法をじっくり検討するべきだと感じています。継がせる方も継ぐ方も事業承継は大きな人生の転換期ですから。

次回は事業承継でM&Aを選択するとしたら、先ずどのような検討から進めたらよいかについてご紹介いたします。

<この記事に関連するサイト>
東京商工会議所「事業承継の取組と課題に関する実態アンケート報告書」
http://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=1023929

中小企業M&A(第1回)「実はM&Aの実態を知らない人の方が意外と多い」(tosho antenna)
https://tosho-antenna.jp/entry/2021/11/12/110000

中小企業M&A(第2回)「後継者がいないなら廃業?M&Aは不要なのか!(清算と廃業の比較)」
https://tosho-antenna.jp/entry/2021/11/26/110000

 

笹川 敏幸(ささがわ としゆき)
【執筆者プロフィール】
笹川 敏幸(ささがわ としゆき)

株式会社経営承継支援 代表取締役社長

大手M&A仲介会社にて中小企業の事業承継型M&A業務に従事。全国の商工会議所および会計事務所と協力し多数のM&A成約を支援。その後、東京都事業引継ぎ支援センター(現 東京都事業承継・引継ぎ支援センター)のサブマネージャーとして公的立場から中小企業M&A業務に従事。民間大手と公的機関、双方を経験し、M&A業務歴は20年以上。

【公的資格】
東京商工会議所 経営安定特別相談室専門スタッフ
東京都事業承継・引継ぎ支援センター 登録専門家