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【連載】中小企業M&A(第2回)「後継者がいないなら廃業?M&Aは不要なのか!(清算と廃業の比較)」

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会社を休廃業する中小企業が増えています。東京商工リサーチの調査では2020年(1~12月)の全国における休廃業・解散件数は49,698件※1と過去最多を記録しました。また、同調査では休廃業した企業のうち約6割の企業が直前期決算で黒字であることが明らかになっています。

休廃業の理由は様々なものがありますが、休廃業企業のうち代表者の年齢が60歳以上の企業が8割以上を占めていることから、経営者の高齢化と後継者不在を理由にしたものも多いとみられています。

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資料:東京商工リサーチ調べ

 

前回のコラムでは中小企業・小規模事業者もM&Aの対象になるとお伝えしましたが、なぜ休廃業を選択する企業がこんなにいるのか、と首を傾げる方もいらっしゃるかもしれません。
その理由として、M&Aで会社を売却すると、“乗っ取られて会社が無くなってしまう、社名が変わる”、“社員も職場が変わる、雇用が不安定になる”、というイメージをお持ちの方が多いことが背景にあるようです。

実際に、東京商工会議所が2021年2月に公表した「事業承継の取組と課題に関する実態アンケート報告書」によると、M&Aを検討しない理由として、「良いイメージを持っていない」という回答が最多でした。
M&Aをしたら会社が無くなる、社員もクビになる、それならM&Aをして辛い思いをするより廃業した方が皆のためになる、そんなことをお考えになる方が多いようです。

<M&Aを検討しない理由(複数回答)>

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出典:東京商工会議所「事業承継の取組と課題に関する実態アンケート報告書」P25



前回のコラムでも触れましたがM&Aには大きなメリットがあります。今回は事例を用いてメリットを解説します。


A社は機械部品の製造業で都内に工場を持つ優良企業でした。精密機械の部品を製造しその技術力から取引先の信頼も厚い企業でしたが後継者不在を理由に廃業を選択しました。

都内に工場を持っていたため土地の含み益もあり、廃業にあたっては不動産を売却したことで十分な資金が残り、その資金をもとに銀行からの借入金を返済し、社員にも割増退職金を支給し、きれいに会社を清算廃業できました。

実はこの会社の顧問税理士は廃業よりM&Aを勧めていたのですが、A社の経営者は「M&Aは会社が無くなる、社員が可哀そう」、そのような思いが強く、廃業を選択されたとの事です。

顧問税理士はM&Aの方がメリットは大きいという事がわかっていたので内々に候補先になる企業がいないか調査していたようです。
しばらくすると優良企業であるA社に興味を持つ会社が現れましたが、その時にはもう清算廃業処理が進み、社員への解雇通知と資産売却が進んでいました。とてもM&Aができる状況ではなかったのです。

この時に買い手候補が想定していた金額は清算廃業で残った額の倍以上だったそうです。
M&Aでは資産の評価額にのれん代(営業権)が加算されて企業価値を評価します。株式評価額においても相続評価等に比べてM&Aでは一般的に高く評価されます。おそらく本件でもA社社長の手取り額はM&Aを実行した場合、倍以上となっていたでしょう。

また、中小企業のM&Aにおいては、ほとんどが友好的な株式譲渡が選択され、結果的にグループ会社(子会社)になるため、会社は残り、社名もそのまま、社員の雇用も給与もそのまま、取引先もそのまま継続されることが多いです。

今回の事例では、顧問税理士がどこまでこの事をお話しされたかわかりませんが、M&Aのメリットを聞いたら社長よりも社員や取引先がガッカリするのではないでしょうか。


中小企業のM&Aには主に3つの誤解があります。

  ① M&Aは大企業が金儲けのために実施するもの
  ② M&Aをすると社員が不幸になる、恨まれる
  ③ M&Aで売るくらいなら、清算した方が皆のためになる(世間体が悪い)

今回は事例をもとにM&Aのメリットをお話ししましたが、この誤解により多くの方々がメリットを享受できずにいるのが現実です。
M&Aを噂やイメージだけで判断しないで専門的な知識のある方にご相談していただくことをお勧めします。

次回のコラムでは、事業承継には親族承継・従業員承継・第三者承継(M&A)と様々な方法がありますが、どの様に検討すべきかについて触れていきたいと思います。

<この記事に関連するサイト>
2020年「休廃業・解散企業」動向調査(㈱東京商工リサーチ)
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210118_01.html

【連載】中小企業M&A(第1回)「実はM&Aの実態を知らない人の方が意外と多い」(tosho antenna)
https://tosho-antenna.jp/entry/2021/11/12/110000

 

笹川 敏幸(ささがわ としゆき)
【執筆者プロフィール】
笹川 敏幸(ささがわ としゆき)

株式会社経営承継支援 代表取締役社長

大手M&A仲介会社にて中小企業の事業承継型M&A業務に従事。全国の商工会議所および会計事務所と協力し多数のM&A成約を支援。その後、東京都事業引継ぎ支援センター(現 東京都事業承継・引継ぎ支援センター)のサブマネージャーとして公的立場から中小企業M&A業務に従事。民間大手と公的機関、双方を経験し、M&A業務歴は20年以上。

【公的資格】
東京商工会議所 経営安定特別相談室専門スタッフ
東京都事業承継・引継ぎ支援センター 登録専門家