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【連載】渋沢栄一の言葉~著書から読み解く“不変の「王道」” Vol.19

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東京商工会議所の初代会頭であり、500を超える企業の設立に関わった渋沢栄一は、実に多くの言葉を残してきました。現代の経営においてもその言葉は力を持ち、不変の王道として、たゆまなくその意志をつなぐことが求められているのではないでしょうか。
このコーナーでは、東商新聞  で連載中の「渋沢栄一の言葉」を、順次紹介していきます。


その人、その国の生存上最も必要なるは実業である。
この実業の力を強くするのが、すなわち国の富を強くする所以である。

【渋沢栄一 訓言集】:実業と経済 より


11月初旬にオーストラリアのゴールド・コーストで開催されたWAOJE(World Association of Overseas Japanese Entrepreneurs)のGlobal Venture Forumで「渋沢栄一の『論語と算盤』で未来を拓く」という題名の基調講演の機会をいただきました。  

海外で活躍する日本人起業家のネットワークの世界大会であり、世界から200名を超える若手中心の起業家や支援者などが参加しました。
活躍している国々や事業の分野は様々ですが、和気あいあいと交流されている皆さんに共通点があると感じました。
「見えない未来を信じる力」の持ち主であることです。  

前例がないかもしれません。将来が確実に見える訳でもない。
しかし、世界に羽ばたいて実業の実現に挑んでいる有志は、間違いなく日本の国富につながると確信しました。  

日本の国境の「枠」の内側に全てが留まることが日本の国富へつながると思えません。
国境の中に留まって「見える未来」とは少子高齢化社会という避けられない現実があるからです。  

一方で、これからの未来を担う日本人の若手に「自分は世界とつながっているんだ」というスイッチが入れば、日本の未来像は変わります。
はっきりと確定した未来ではないかもしれませんが、色々な可能性が潜んでいる「見えない未来」です。  

そもそも人口が増えないと豊かになれないという考えは、過去の成功体験です。
日本は少子高齢化という課題を持つ先進国であるからこそ、人口が減ったとしても幸せで豊かな生活ができるという、これからの新たな成功体験をつくれる可能性があります。  

そのために、世界との連携が必要不可欠です。
日本の国境の「枠」の外へ視線を配れば、世の中は若い。
そして、彼らは日本が当たり前と思っている普通の生活を求めています。
つまり、かなりの成長の伸びしろに日本は貢献や関与できるはずで、海外で活躍する日本人起業家のような「つなぎ役」の存在は重要な役目を果たせます。  

世界と共に豊かになる日本。
そのような実業を強くすることこそが日本の富を強くする。

その成功体験をつくることにフォローの風を送り込む役目も重要です。 

(東商新聞2019年12月10日号 掲載)

 

その会社を利用して自己の栄達を計る踏み台にしようとか、
利慾を図る機関にしようとかいう考えをもって、
重役となる者がある。
かくのごときは、実に宥(ゆる)すべからざる罪悪である。

【論語と算盤】:合理的の経営  より


確かにカルロス・ゴーン被告が訴えるように日本の刑事司法制度には色々な改善点がありそうです。
確かにゴーン被告は合理的経営に徹底して日産をリバイバルさせました。
そして、確かに逮捕されてから日産の時価総額の棄損は告訴されている罪の金額と比べると遥かに大きいものとなっています。  

自分が主張していたことが本当に正しければ、ルールの範囲内で行動していたことになるので日本の裁判所でもゴーン被告は無罪を勝ち取る可能性はゼロではなかったと思います。
しかし、仮に無罪という判決が下されてとしても、果たして、経営者として、人間として、正しい道理に従っていたのでしょうか。  

ゴーン被告は記者会見で吠えました。
自分だけでは何事も決議できなく、他の役員が契約書類に署名しているではないかと。
ただ、あの素振りを見ると、あの怒りを見ると、これがゴーン被告の本性ではないかと感じた視聴者が多かったと思います。  

経営会議や取締役会でも同じ本性を見せていたようなら、ゴーン被告の意思に異議や反対意見を述べるだけではなく、留意点や課題を示すことも容易ではなかったと想像できます。  

もちろん、このように企業経営のガバナンスが機能していない状態が長年続いていたのであれば、「罪者」はゴーン被告だけではありません。
しかし、企業価値の持続的な創造のため、公正なガバナンスを設計して、株主に提案して実行する責務は経営トップが最優先すべき事項ではないでしょうか。
自分の正当性を通すことだけではありません。  

渋沢栄一が唱える「合理的」な経営とは、理屈や理論で正当化させる経営ではありません。
道理や倫理ある正しい経営です。
 

(東商新聞2020年2月10日号 掲載)

<この記事に関連するサイト>
渋沢栄一 特設サイト|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/shibusawa/

 

渋澤 健(しぶさわ けん)
【執筆者プロフィール】
渋澤 健(しぶさわ けん)

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役
コモンズ投信株式会社取締役会長

<略歴>
複数の外資系金融機関でマーケット業務に携わり、2001年にシブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業し代表取締役に就任。07年にコモンズ株式会社(現コモンズ投信株式会社)を創業、08年に会長に就任。経済同友会幹事およびアフリカ開発支援戦略PT副委員長、UNDP(国連開発計画)SDG Impact運営委員会委員、東京大学社会連携本部顧問、等。著書に「渋沢栄一100の訓言」、「SDGs投資」、「渋沢栄一の折れない心をつくる33の教え」、他。

シブサワ・アンド・カンパニー
http://www.shibusawa-co.jp/index.htm