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【連載】渋沢栄一の言葉~著書から読み解く“不変の「王道」” Vol.18

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東京商工会議所の初代会頭であり、500を超える企業の設立に関わった渋沢栄一は、実に多くの言葉を残してきました。現代の経営においてもその言葉は力を持ち、不変の王道として、たゆまなくその意志をつなぐことが求められているのではないでしょうか。
このコーナーでは、東商新聞  で連載中の「渋沢栄一の言葉」を、順次紹介していきます。


事業界のこともまたこの理に外ならぬもので、
多く社会を益することでなくては、正径な事業とはいわれない。

【論語と算盤】:合理的の経営より


「合理的」とは無駄を省く、効率性を重視するなど、理に適った行動を示します。
企業経営がコスト削減を図り、ROE(株主資本利益率)を高めるなどの方針に資本市場が好感する。これが、合理的な経営というイメージです。  

自社株買いという財務的ツールも活用し、株価を支えて株主の利益を重視することによって経営者も多額な報酬を得る、株主と経営の利益が一致していることが企業ガバナンスの基本としています。
私が1980年代の米国MBA時代に学んだ「企業価値」とは、株主価値=発行株数×株価=時価総額であり、現在でもその考えは根強いです。  

ただ、本年の8月中旬に米主要企業の経営者団体であるビジネス・ラウンドテーブルは、顧客、従業員、取引先や地域社会という企業のステークホルダーの利益も尊重した事業運営に取り組む、「株主第一主義」の見直しを宣言しました。  

 1「顧客に価値を届ける」
 2「従業員に投資する」
 3「取引先に公正的・倫理的に接する」
 4「社会を支える」
 5「株主に長期的価値を還元する」  

従来の「株主第一主義」の企業価値の定義には近視眼的な経営になる欠点があります。本年度の企業価値を高めるために、将来の設備投資や人材育成への資金投入を控えて目前の費用削減などで「数字をつくる」ことに目がくらんでも、株価が上昇すれば良しという考えに陥りがちです。  

しかしながら、今回のビジネス・ラウンドテーブルの宣言は、企業の長期的な価値が重要であるということを明記しています。
短期的株主利益が主ではなく、企業の持続的な価値創造に焦点を合わせていることが注目すべき変化です。  

渋沢が示した『理』とは「常に自己のことよりも、国家社会を利する」という道理です。つまり、渋沢が考えた「合理的な経営」とは株主だけではなく企業の様々なステークホルダーも合わせて利する経営ではないでしょうか。

(東商新聞2019年10月15日号 掲載)

 

もし国民全体の希望に依って、
自我のみ主張する事を止め、単に国内の道徳のみならず、
国際間において真の王道を行うという事を思うたならば、
今日の惨害を免れしめることができようと信ずる。

【論語と算盤】:かくの如き矛盾を根絶すべし  より


10月になったというのに大型台風が上陸。温暖化が直接的な原因か定かではありませんが、気候変動の影響はリアルで深刻です。
決して遠い未来の話ではなく、今の私たちの生活に関わっています。  

国連気候行動サミットで16歳のグレタ・トゥーンベリさんの怒りの演説が世界で話題を呼びました。
「あなた方は、お金の話や永遠の経済成長というおとぎ話ばかり。よくもそんなこと言えるわね」   

いかが感じましたか。不快感があったかもしれません。
グレタさんご自身や親までにも批判の声が上がりました。
でも、私の率直な感想は「確かに」でした。  

私たち現役世代は、次世代、次々世代の嘆きや怒りに応えなければなりません。
世の中の様々な課題へ耳を傾け、目を開き、解決のために手足を動かさなければならないと痛感しました。  

気候変動問題と財政問題は似たようなところがあります。
その影響は深刻かもしれません。
でも、それは遠い見えない未来であり目前の生活維持の方が大切。
これは、自分たちの今のために、会うことがない将来世代にツケを回している事態なのです。  

私たちは、次世代、次々世代、将来世代へ、どんな世の中を残すべきなのか。
答えは明らかだと思います。
今のMEのためだけではなく、未来のWEのためにも。
幸福と資本主義は相容れない関係ではなく、合致する。そのような答えを、私たちは次世代、次々世代に残すべきでしょう。

「未来を信じる力」はおとぎ話ではありません。
MEのためだけではなく、WEのためにも。「未来を生きる力」を共に育みましょう。 

(東商新聞2019年11月15日号 掲載)

<この記事に関連するサイト>
渋沢栄一 特設サイト|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/shibusawa/

 

渋澤 健(しぶさわ けん)
【執筆者プロフィール】
渋澤 健(しぶさわ けん)

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役
コモンズ投信株式会社取締役会長

<略歴>
複数の外資系金融機関でマーケット業務に携わり、2001年にシブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業し代表取締役に就任。07年にコモンズ株式会社(現コモンズ投信株式会社)を創業、08年に会長に就任。経済同友会幹事およびアフリカ開発支援戦略PT副委員長、UNDP(国連開発計画)SDG Impact運営委員会委員、東京大学社会連携本部顧問、等。著書に「渋沢栄一100の訓言」、「SDGs投資」、「渋沢栄一の折れない心をつくる33の教え」、他。

シブサワ・アンド・カンパニー
http://www.shibusawa-co.jp/index.htm