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【連載】渋沢栄一の言葉~著書から読み解く“不変の「王道」” Vol.16

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東京商工会議所の初代会頭であり、500を超える企業の設立に関わった渋沢栄一は、実に多くの言葉を残してきました。現代の経営においてもその言葉は力を持ち、不変の王道として、たゆまなくその意志をつなぐことが求められているのではないでしょうか。
このコーナーでは、東商新聞  で連載中の「渋沢栄一の言葉」を、順次紹介していきます。


一日も早く道徳をして物質的文明と比肩せしめ得るの程度に
向上させなくてはならぬ。

【論語と算盤】:果たして誰の責任ぞ より

物質的な文明(経済的リターン)と道徳(社会的リターン)が相容れない関係ではないという渋沢栄一の教えの観点から、昨年末の産業革新投資機構(JIC)の経営陣が経済産業省と運用成果に対する報酬制度について対立し総退陣した出来事に考えさせられました。  

ファンドが経済的リターンを追求することは当たり前のことであり、その運用成果に応じて報酬が支払われることも当然です。
しかし、そのファンドの運用資産の原資が国庫の場合、経済的リターンを追求することだけが主な目標になることには違和感を覚えます。  

民間が既に実践している利潤を主とする投資活動は民間に任すべきで、政府が入るべき領域ではありません。
国庫(国民からの税収あるいは借金)をファンドの運用資産の原資にするならば、やはりそこには政策的な目的が必要です。  

例えば、市場メカニズムだけでは働かない「市場の欠落」が生じた場合、あるいは、経験則が乏しく民間だけでは入り難い一方で日本の国力を高める新規分野の推進といったような側面では官民連携ファンドに存在意義はあるでしょう。  

今年のG20およびTICAD(アフリカ開発会議)の開催によって世界における日本の役割が注目され、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会を経て、2025年には日本国際博覧会(大阪・関西万国博覧会)へとつながります。
世の中のサステナビリティ(持続可能な経済活動)に日本が投資活動を通じて責任を示す、絶好のタイミングです。  

経済的リターンとサステナブルな成長など社会的インパクトを同時に求め、日本の民間の経験則が少ない投資などを促進するJICは、存在感があるファンドになると考えます。

(東商新聞2019年3月20日号 掲載)

 

仁義道徳と生産殖利とは決して矛盾しない。

【論語と算盤】:廓清の急務なるゆえん  より

日本に新しい令和時代の幕が上がりました。
これまでの時代に溜まりに溜まった悪いものをはらい除いて清める「廓清(かくせい)」により、今までの日本が築いてきた良いものを再確認し、日本の本来の姿を磨く最適なタイミングです。  

新しい元号が世に明かされてからおよそ一週間後。日本の紙幣が刷新されるという発表もありました。
「たまたま重なった」とのことですが、偶然であったならば、それはそれとして見えざる力が、これからの時代の行方を示唆していると言えるでしょう。  

新しい紙幣の「顔」に、ライフサイエンス(北里柴三郎)、女性の活躍(津田梅子)、そして経済人(渋沢栄一)が図柄になることを合わせると、そこから浮かび上がってくるメッセージはサステナビリティ、持続可能な社会です。  

渋沢栄一が提唱した思想である論語(仁義道徳)と算盤(生産利殖)の現代意義は、まさにサステナビリティです。
サステナビリティに算盤は不可欠ですが、算盤だけを見つめているとつまづいてしまうかもしれない。
一方、著しく世の中が変化する最中に論語を読むだけでもサステナビリティが乏しい。
「か」ではなく、あくまでも「と」であり、未来へ前進する車の両輪のように両方が必要です。   

この世の中で格差問題やブラック企業を産む資本主義の終焉を望む声が上がっている現状で、あえて「日本の資本主義の父」である渋沢栄一を日本国の紙幣の最高額面に選ぶというメッセージ性も興味深いです。  

実は、渋沢栄一は「資本主義」という言葉を使っておらず、「合本主義」を信奉していました。
資本による支配や搾取でなく、「ぽたぽた垂れている滴が、集まって大河になる」という多数の少数株主へ富を幅広く還元することが国家社会の豊かさへつながるという考えです。  

ここで大切な要素とは、経済社会の原動力となる大河のようにお金が循環することです。
5年後に渋沢栄一は声を上げるでしょう。
「ワシは暗いところが嫌いじゃ。タンスに入れたままにしないでくれ!」と。

(東商新聞2019年5月20日号 掲載)

<この記事に関連するサイト>
渋沢栄一 特設サイト|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/shibusawa/

 

渋澤 健(しぶさわ けん)
【執筆者プロフィール】
渋澤 健(しぶさわ けん)

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役
コモンズ投信株式会社取締役会長

<略歴>
複数の外資系金融機関でマーケット業務に携わり、2001年にシブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業し代表取締役に就任。07年にコモンズ株式会社(現コモンズ投信株式会社)を創業、08年に会長に就任。経済同友会幹事およびアフリカ開発支援戦略PT副委員長、UNDP(国連開発計画)SDG Impact運営委員会委員、東京大学社会連携本部顧問、等。著書に「渋沢栄一100の訓言」、「SDGs投資」、「渋沢栄一の折れない心をつくる33の教え」、他。

シブサワ・アンド・カンパニー
http://www.shibusawa-co.jp/index.htm