国・東京都・東京23区では新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者向けに多くの支援施策を打ち出しています。
東京商工会議所では、「早分かり解説!事業再構築補助金の傾向と対策」と題し、七田総合研究所 代表 七田 亘 様に「分かりやすく」解説いただいたコラムを掲載させていただくこととなりました。是非ご覧ください。
(本原稿は、2021年8月12日現在の情報に基づいて執筆しています)
1.はじめに
現在、事業再構築補助金の第3回公募が開始されていますが、第3回公募に挑戦するにあたり、第1回公募の結果を分析することは採択可能性を高める上でポイントとなります。
事業再構築補助金事務局が第1回公募の結果の詳細と、それを踏まえた動画を公表しています。これらの資料を元に事業再構築補助金の傾向と対策をまとめました。
2.第1回公募 採択の傾向
事業再構築補助金事務局では、第1回公募の結果についてデータを公開しています。
■事業再構築補助金事務局「事業再構築補助金 第1回公募の結果について」(令和3年6月)
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/result/koubo_kekka_gaiyou01.pdf
この資料に基づいて、特に押さえておきたいポイントをまとめました。
(1)全体の採択率
第1回公募の応募件数は22,231件で、このうち申請要件を満たしたものは19,239件でした。全体として、採択件数は8,016件で、応募件数に対する採択率は36.1%、申請件数に対する採択率41.7%でした。しかし、応募件数が一番多い中小企業等を対象とした通常枠に限って採択率を見ると、応募件数に対する採択率は30.1%、申請件数に対する採択率は 34.4%と全体より低い採択率となりました。
また、採択率のほかに注目すべきは「不備率」です。書類不備等で申請要件を満たさなかった件数が相当数あり、不備率は全体で13/.5%に達しています。この不備をいかに少なくできるかがポイントといえます。
(2)認定支援機関別の採択率
次に、認定支援機関別の応募・申請・採択状況を見ると、特に中小企業診断士、民間コンサル、地銀などの金融機関の採択率が高い傾向にあります。
事業再構築補助金の申請要件には、事業計画を認定経営革新等支援機関(以下、認定支援機関と略します)と策定することが求められており、今後、タッグを組む認定支援機関をどう選ぶかもポイントといえます。
(3)事務局の動画からわかること
さらに、事業再構築補助金事務局が公開した第1回公募の傾向を解説した動画 によれば、
「想いは伝わってくるが、計画の中身はこれからという感じ。」
「この事業計画で、なぜ、顧客(売上)が増えるのか?という根拠の説明が弱いものが8割方だった。」
と、中小企業庁の担当者は評価していました。
このことから、合理的で説得力のある事業計画を策定することが、いかに大切かがわかります。
3.今後の対策
以上の傾向分析を踏まえ、第3回以降の公募に向けてのポイントは3つあるといえます。
ポイント1:要件不備が無いようにする
ポイント2:合理的で説得力のある事業計画を策定
ポイント3:良い認定支援機関を見つける
それぞれ、ポイントを見ていきましょう。
(1)ポイント1:要件不備が無いようにする
事業再構築補助金の電子申請にあたって、不備が多くみられることが、事業再構築補助金事務局が公開している以下の資料から読み取れます。
■事業再構築補助金事務局「事業再構築補助金 電子申請にあたってご注意いただくこと」
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/shinsei_fubi.pdf
上記の資料の中で、特に多かった事例が以下のようにまとめられています。
書類不備等で審査されないのは非常にもったいないことです。公募要領や上記資料を熟読のうえ、なるべく余裕をもって申請するようにしてください。
(2)ポイント2:合理的で説得力のある事業計画を策定
当たり前のことですが、「合理的で説得力のある事業計画」を策定することは重要です。ただ、どうすれば「合理的で説得力のある事業計画」になるか、多くの方は悩むことでしょう。事業計画策定の際の姿勢として、「あなたが投資家だったとして、身銭を投じたくなる事業計画を策定しよう」と筆者はセミナー等でよく言っています。根拠もなく、「売上が●●万円となるから、投資してください」と他人から言われても、身銭を投じて投資はしないでしょう。補助金も同じと考えてください。
実は、「合理的で説得力のある事業計画」策定にあたってのヒントがあります。以下をぜひご覧ください。
①事業再構築補助金事務局 動画「第1回公募を振り返って~事業計画作成のアドバイス~」
②事業再構築補助金事務局「第1回公募における採択事例紹介『事業計画書』
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/cases.php
①の動画において、中小企業庁の行政官は以下のような指摘をしています。
- 「今までどういう事業をやっていて、新事業で何をするのかを明確にして欲しい」
- 「なぜ、その事業を選択したのか?」
- 「3,000万円投資して、売上が300万円上がったはNG(筆者注:投資対効果が低い。上がる売上に対して投資が見合っていない)」
- 「顧客規模が分からないため投資対効果が測れない事業計画が8割程度あった。顧客規模は明確に!(筆者注:売上の根拠を明確に!)」
- 「事業再構築では、生産性の向上・利益率の改善を意識して欲しい。」
上記のことを意識して、筋道の立った説明をしてください。説明の際は、文章だけでなく、図、イラスト、写真も活用して説明しましょう。審査員に読まれることを意識して事業計画の説明を工夫する努力も必要です。
工夫の具体的事例は、東京商工会議所の事業再構築補助金の説明ページの動画に詳しく述べられていますので、ぜひ参考にしてください。
■東京商工会議所 事業再構築補助金 説明HP
https://www.tokyo-cci.or.jp/jigyousaikouchiku/
また、採択になった事業計画書の実例が公開されています。私の知る限り前代未聞のことです。それだけ、国として事業計画に深く真剣に向き合ってほしいということかと思います。特に、事例を見る際は、目次や各項目の見出しに注目してください。採択されている事業計画書は、多少の違いはありますが説明している事項や順番は共通しています。筆者は、「ストーリー(計画の筋書き)を意識しよう」とセミナー等でよく言っているのですが、採択事例の目次や各項目の見出しは、正にストーリーそのものです。ぜひ参考にしてください。
(3)ポイント3:良い認定支援機関を見つける
良い認定支援機関かどうかを見極めるにあたり、まずは認定支援機関の支援実績を把握しましょう。支援件数と採択率について、以下のサイトから探すことができます。
■「認定経営革新等支援機関検索システム」
https://ninteishien.force.com/NSK_CertificationArea
また、どこまで支援してもらえるのか、支援範囲を確認することも大切です。事業計画書策定までの支援に留まるのか、それとも採択後の補助事業遂行や、補助事業終了後の実行フェーズまで支援してもらえるのか、確認しましょう。
なお、事業再構築は、補助金採択がゴールではなく、実行して成功するまでがゴールであることは、当たり前かもしれませんが、ぜひ認識しておいてください。
そして、最後は認定支援機関と相性が合うかどうかもポイントです。気になることは、どのような些細なことでも遠慮せず質問して、それに対する応答などから、相性が合うかどうかを判断してください。事業再構築補助金は、「思い切った事業再構築」を支援する事業ですが、「思い切った事業再構築」には当然リスクも伴います。だからこそ、事業者の方にとって信頼のおける認定支援機関の支援が不可欠ですが、相性が合わないと納得感が低くなり、信頼関係にも影響します。
4.第3回公募(7/30発表)について
2021年7月30日に、第3回公募が開始されています。今回、申請要件や補助額の変更があるほか、「最低賃金枠」「大規模賃金引上枠」という新類型が新設されています。また、製品等の新規性要件等の「新規性」の運用の見直しもありました。
このように、大きな変更がありましたので、少なくとも最新の「公募要領」「事業再構築指針の手引き」「事業再構築補助金の概要」は、熟読してください(事業再構築補助金事務局のホームページからダウンロードできます)。
なお、今後、内容に変更がある可能性がありますので、制度を利用される際は必ず、事業再構築補助金事務局ホームページから最新情報を確認してください。そして、不明点が生じたときは、コールセンターにお問い合わせください。
<関連リンク>
●事業再構築補助金事務局
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/
●経済産業省 事業再構築補助金HP
https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/index.html
●東京商工会議所 事業再構築補助金 説明HP
https://www.tokyo-cci.or.jp/jigyousaikouchiku/
●事業再構築補助金事務局 動画URL
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/movie.php
(本原稿は、2021年8月12日現在の情報に基づいて執筆しています)
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七田総合研究所 代表
中小企業診断士・社会保険労務士
<略歴>
埼玉県庁にて中小企業の経営革新支援等の商工行政などに従事し、企業の「行動」が伴う経営革新計画の策定支援の実績多数。その後、みずほ総合研究所株式会社のコンサルタントとして、主に企業の人事制度再構築、M&Aに係る人事制度統合コンサルティングに従事した後、開業。中小企業施策活用、中小企業の経営戦略策定(新規事業開発、財務計画含む)から実行支援、人事労務に関する問題解決のコンサルティングとセミナーを得意とする。
日本商工会議所 規制・制度改革専門委員会 学識委員
七田総合研究所ホームページ https://shichida-ri.co.jp/