※本記事は、東商新聞 2021年7月20日号に掲載したコラムをWEBページ用に再編・掲載しています。
「生産性向上」や「デジタルによる効率化」が報道されない日はない。しかし、どこか他人事の人も多いのではないだろうか。地方で行政や企業を支援し続けて5年。私の目にはそう映る。
企業の現場ではFAXがまだまだ現役。社員同士の連絡はいまだに口頭、電話中心。工場や事務所には紙、紙、紙。今はそれでいいかもしれない。しかし、これからはそうはいかない。
2025年時点で6,277万人と推定される労働人口は、2050年には4,864万人まで減少すると言われている。この人口減少の問題は確実に訪れる未来だ。今まで3人で回していた経理が高齢化し、1人、2人と辞める。ハローワークで求人を出しても、半年以上応募が来ない。そんな時代は目の前に迫っている。
そこで我々が取るべき手段はひとつだ。「人が増えないなら、仕事の方を減らす」。経理が3人から1人になったのであれば、労力を3分の1にするしかない。
長野県富士見町。八ヶ岳の山麓に豆腐屋「両国屋豆腐店」は佇む。冷涼な水を使った豆腐は長らく地元で愛されてきた。そんな両国屋の代表から「助けてほしい」と声をかけられたのは2017年のことだった。
実際に事務所を訪問して驚いた。壁一面に手書きの付箋やFAXがびっしりと貼り付けられていた。注文管理、製造計画、出荷、納品、請求、会計処理。これらすべてを代表一人が行う。朝早くから仕込みをし、疲れた体で事務作業をする。夜遅くまで続くこともあった。経理事務を行っていた母親は高齢化し、「そろそろ事務は引退したい」ともこぼしていた。
デジタル化以前は「豆腐のことを2割しか考えられなかった」という。「帰ったら事務作業しなくちゃ、在庫は足りるかどうか、仕入れは大丈夫か」、つまりは豆腐以外のことが8割、頭の中を埋め尽くしていた。代表は「常に黒いモヤが頭の上にある感じ」と表現し、苦しんでいた。
支援の結果、最終的には事務作業を年間600時間削減することに成功した。受注から製造、納品まで「kintone」というクラウドサービスで管理。会計処理はクラウド会計「freee」を利用し、ネットで完結、自動化したことで銀行へ記帳に行くこともなくなり、経理の母親も引退できた。
同店は受注管理、会計、給与計算、販売管理などを軒並みクラウド化した。ポイントは、複数のクラウドサービスを組み合わせて使っている点だ。
近年、クラウド型の様々な業務システムが登場し、会計や勤怠管理、販売管理など、経営者は自分の会社に適したサービスを選択し、組み合わせることで効率化を実現できるようになった。システムは「1からつくる」時代から、「欲しい物を選ぶ」時代へとシフトしたのである。
さて、省力化した両国屋豆腐店の現在はどうなったか?かつて事務作業に消えていた時間は、営業や商品開発など「攻め」の時間に変化した。人口減少が確実にくるこれからの時代。デジタル化というのは「時間づくり」「創造的な活動づくり」そのものである。
「今不要だから」ということでデジタル化を見て見ぬ振りをするのはやめよう。「10年、20年後、必ず必要になる」と知ったあなたは、今日から動き出せるはずだ。
つづく株式会社社長
長野県上田市を拠点に、企業のクラウド化・業務自動化を支援。
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