※本記事は、東商新聞 2021年4月20日号に掲載したコラムをWEBページ用に再編・掲載しています。
前回お伝えしたように、コロナ禍による社会的不安を背景にデジタル・クライシスのリスクは拡大し続けている。
なかでも悩みの種となっているのが、“サイレントクレーム”の存在だ。
複雑化する“サイレントクレーム”の現在
サイレントクレームとは、企業に届かないユーザーからのクレームのことで、かつては匿名性掲示板が、ここ10年は日々大量に投稿されているSNSがその温床になっていた。
しかしここ数年での様々な炎上事件をきっかけに、多くの企業が自社でSNSのモニタリングを行うようになり、SNSに投稿された(クレームに限らない)意見を企業側がしっかりと把握し、その内容に合わせた対応ができるようになってきている。
しかしそれでもサイレントクレームの危険性は残っており、その原因はサイレントクレームの複雑化にある。
最も大きい要因は、ユーザーが投稿する場所(媒体)の多様化によるものだ。
企業側はSNS、特にTwitterを中心にモニタリングをしていることが多いが、サイレントクレームは企業の目が行き届かない場所で密かに生まれ、日の目を見る時を待っている。
そのサイレントクレームの威力をまざまざと見せつけた事例を紹介する。
炎上事例に見るサイレントクレームの恐怖
2019年夏、とあるコンビニエンスストアの店舗内をネズミが歩き回るショッキングな動画がTwitterで出回った。
その元となった投稿には店舗名やチェーン名は記載されていなかったが、すぐにネットユーザーによって特定され、Twitterやネットニュースにより、ネット界隈で瞬く間に知れ渡ることとなった。
コンビニ本部はその騒動を受けて、翌日には該当店舗の営業休止と改善を発表。その迅速な動きにネットユーザーからは評価する声も上がっていた。
しかし、実はこの騒動が起こる数カ月前の段階で、このコンビニ店舗のGoogleマップの口コミ欄に「ネズミがいる」といった投稿が複数件も掲載されていたのだ。
つまりコンビニ本部は「ネット上の炎上」に対しては迅速に察知できていたが、Googleマップの口コミ、つまりサイレントクレームに気付くことができていなかった。
もし事前に気付いていれば、動画が出回ってしまう前に予防することもできたはずだが、口コミを見逃してしまったのだ。結局、当該店舗はその後閉店となってしまった。
このように、多くの人に拡散され大騒動となるのはTwitterに多く見られるが、その元ネタは企業側が気付けないネットの片隅に潜んでいるのかもしれない。
同じく2019年に社会問題にもなった“バイトテロ”も、Instagramのストーリーへの投稿が発端であった。つまり、サイレントクレームの放置がデジタル・クライシスへと進展してしまうということだ。
Twitterをモニタリングしていれば炎上自体は察知できるものの、炎上を防止するにはそれだけでは足りず、様々なメディア・媒体やSNSの新機能にも目を光らせる必要があると言える。次回はその点を詳しく解説する。
シエンプレ主任コンサルタント
デジタル・クライシス総合研究所主席研究員も兼務。
<この記事に関連するサイト>
東商新聞 2021年4月20日号(7面に掲載)
https://www.tokyo-cci.or.jp/newspaper/file210420_5-8.pdf
東商新聞 デジタル版(最新号・バックナンバー)
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