東京商工会議所の初代会頭であり、500を超える企業の設立に関わった渋沢栄一は、実に多くの言葉を残してきました。現代の経営においてもその言葉は力を持ち、不変の王道として、たゆまなくその意志をつなぐことが求められているのではないでしょうか。
このコーナーでは、東商新聞 で連載中の「渋沢栄一の言葉」を、順次紹介していきます。
大正維新というも大いに覚悟を定めて
上下一致の活動を現したいものであるが、
一般が保守退嬰の風に傾いておる際であるから、
一層の奮励努力を要する。【論語と算盤】:大正維新の覚悟 より
「明治維新」という言葉は現在に残っていますが、「大正維新」という言葉が歴史に残ることはありませんでした。
なぜなら、その時代に渋沢栄一が訴えた、民間を含む維新を日本が実現できなかったからです。
維新とは「これあらた」、つまり、改革が進み、自ら新しい時代を拓くことです。
大正時代とは、日本が先進国に仲間入りして、それまでの歴史において日本人が最も豊かに暮らせた時代。
ただ、当時の日本の民間人は更に新しい時代を拓く気迫がなく、世の中の情勢は政府に放任していました。
大正時代の維新のタイミングを逃し、その後、日本が流れ着いた時代は昭和の初期。
当時の日本政府の指導者は大悲劇を招き、その重荷は未だに現世代が背負っていて、次世代も解かれることがなさそうです。
当時の栄一の言葉に耳を貸すべきでした。
「今日の状態で経過すれば、国家の前途に対し、大いに憂うべき結果を生ぜぬとも限らぬのであることを思い、後来悔ゆるがごとき愚をせぬように望むのである」
今秋の衆議院選挙で現状は維持されました。
ただ、日本の今日の状態に希望が高まる気運を感じた国民は少ないと思います。
来年は「明治維新150年」です。新しい年号も迎えます。
今こそ、民間主導の維新により日本の新たな日を実現させましょう。
(東商新聞2017年11月20日号 掲載)
その教育の方法はというと理智の一方にのみ傾き、
規律であるとか人格であるとか、
徳義であるとかということはみられない。【論語と算盤】:理論より実際 より
著しく変化している世界の潮流に先手を打とうとしている日本企業は少なくありません。
しかしながら、それら企業の発展の担い手となる人材を供給している日本の教育は、未だに日本の過去の成功体験に留まっているのではないでしょうか。
幼児教育から受験、進学という日本の教育が求めている成果とは「よい」大学に入学して、「よい」会社に入社すること。
そして、その「よい」会社とは終身雇用・年功序列を前提に一括採用する会社です。
受動的に講義で知識を受け入れて、求められている答えを試験で返す教育方針と相性が合う「よい」会社の時代背景は右肩上がりの経済成長期です。
強い追い風が吹いていたので、製造ラインのように歯車をそろえて効率的に回すことに注視していれば、勢い良く前進できたのです。
しかし今の日本経済社会は構造的な追い風は弱まっています。
色々な種類の歯車を活用することに試行錯誤しながら、成長の風を自らキャッチしなければなりません。
正しい答えを返す、あるいは正しくない答えを返さないという教育ではなく、正しい問いを引き出すことによって向上心を刺激するような教育が必要な時代になっています。
単にルールづくりで統一する教育ではダイバーシティ(多様性)のよい側面をそぎ落としてしまう恐れがあります。
ただ、問う力を支える規律、人格、徳義という人間の普遍性、これらを育成する教育改革は急務です。
教育改革を後回しに2兆円の消費税増税の財源を充てることは、バラマキだけに陥るリスクがあり、賛同しかねます。
(東商新聞2017年12月20日号 掲載)
<この記事に関連するサイト>
渋沢栄一 特設サイト|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/shibusawa/

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役
コモンズ投信株式会社取締役会長
<略歴>
複数の外資系金融機関でマーケット業務に携わり、2001年にシブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業し代表取締役に就任。07年にコモンズ株式会社(現コモンズ投信株式会社)を創業、08年に会長に就任。経済同友会幹事およびアフリカ開発支援戦略PT副委員長、UNDP(国連開発計画)SDG Impact運営委員会委員、東京大学社会連携本部顧問、等。著書に「渋沢栄一100の訓言」、「SDGs投資」、「渋沢栄一の折れない心をつくる33の教え」、他。
シブサワ・アンド・カンパニー
http://www.shibusawa-co.jp/index.htm