〜経営に役立つ情報・事例を発信するサイト〜
powered by 東京商工会議所

「一代飛ばしの承継」が実現!事業承継税制の特例について

f:id:tosho-antenna:20210323163034j:plain

 
中小企業の円滑な事業承継を後押しすべく、非上場株式の取得に伴う相続税・贈与税負担を大幅に軽減する事業承継税制の要件等が“期間限定”で大幅に拡充されました。事業承継を考えている経営者にとってまさに“千載一遇のチャンス”が到来する中、「相続税負担が少なくなるのは良いんだけど、利用するのは難しそう。よく分からない」と感じる方も多いと思います。本稿では、法案の立法を担当した専門家が分かりやすく解説します。

1.事業承継税制とは?

事業承継税制とは、会社の後継者が先代経営者等から自社株式等を取得した場合に、一定の要件を満たしているときは、贈与税や相続税の納税を猶予し、後継者(2代目)から次の後継者(3代目)に株式を承継した場合等に猶予された税金が免除される制度です。

2018年度税制改正により従来の措置(一般措置)の内容を大幅に拡充した特例措置が設けられ、株式贈与時・相続時の現金負担ゼロで承継できるようになりました。ただし、特例措置は10年間(2018年1月から2027年12月まで)限定であるため、対象期間内に事業承継できるようにするための準備が大切です。

 

f:id:tosho-antenna:20210318131940p:plain

2. 特例措置で何が変わった?

特例措置は、主に以下の4点が一般措置に比べて拡充されています。

(1)対象株式等の拡充

一般措置においては、事業承継税制の対象となるのはその会社の発行済み株式総数の2/3に達する部分までであり、相続税の猶予割合は80%となっています。そのため事業承継税制を適用したとしても、最大でも約53%(2/3×80%)しか猶予の対象となりません。

特例措置においては、全株式(無議決権株式等を除きます)が事業承継税制の対象となり、相続税の猶予割合も100%に引き上げられました。これにより、贈与時・相続時の現金負担ゼロで事業承継を行うことができるようになりました。

(2)対象者の拡充

一般措置においては、1人の経営者から1人の後継者への贈与・相続のみが対象となっていました。
特例措置においては、最大3人の後継者までの贈与・相続が対象となりました。これにより、会社の経営の実情にあわせた柔軟な事業承継を行うことができるようになりました。また、先代経営者以外の人から贈与・相続を受けた場合でも事業承継税制の適用を受けることが可能になったため、後継者への株式集約が行いやすくなりました。

(3)雇用維持要件の緩和

事業承継税制においては、事業承継後5年間平均で8割の従業員の雇用維持が求められています。一般措置においては雇用8割を維持できなかった場合には、猶予された税額の全部を納税する必要がありました。

特例措置においては、雇用8割を維持できなかったとしても、引き続き猶予を受け続けることができることとされました。しかし、雇用確保は日本経済にとって重要ですので、雇用8割を下回った場合には、その下回った理由等を記載した実績報告書を認定経営革新等支援機関の確認を受けたうえで、都道府県庁に提出する必要があります。

(4)経営環境の変化に応じた差額の免除

特例措置においては、第三者へM&Aで会社を売却した場合や事業継続が困難で廃業した場合などには、売却・廃業時の株価を基に納税額を再計算し、当初猶予税額との差額については免除を受けることができます。つまり、最初から低い株価で贈与・相続を受けたものと考えて、低い株価に対応する贈与税・相続税だけを納税すれば良いことになります。


f:id:tosho-antenna:20210318132513p:plain

 

この差額減免の適用を受けることができるのは、事業承継税制適用後6年目以降であり、かつ、経営環境が変化したとして一定の事由(例:直前3事業年度のうち2事業年度以上において赤字となっていること)に該当している場合に限られます。

3. 特例措置を受けるためには?

特例措置の適用を受けるためには、2023年3月31日までに特例承継計画を提出し、2027年12月31日までに先代経営者から贈与又は相続により株式等を取得する必要があります。

特例承継計画とは、「先代経営者が有する株式等を後継者が取得するまでの期間における経営の計画」や「後継者が株式等を取得した後5年間の経営計画」を記載したもので、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けたものをいいます。

当初提出期限である2023年3月31日までに特例承継計画を提出していれば、その後の変更は提出期限を過ぎても何度でも可能です。また、経営計画どおりにならなくても、株式等の承継ができなかったとしても、何らの罰則はありません。そのため、少しでも特例措置を適用する可能性があるのであれば、特例承継計画を提出することをお勧めいたします。


■中小企業庁HPへのリンク
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_tokurei_yoshiki.htm

 

※特例承継計画の様式

f:id:tosho-antenna:20210318163456j:plain


また、東京商工会議所では、先代経営者から後継者が株式等を取得する際に必要な要件について、チェックリストを用意していますので、自社の状況についてご確認ください。

■東商 事業承継支援ポータルサイト-税制チェックリストへのリンク
https://www.tokyo-cci.or.jp/jigyoshoukeiportal/task/checklist/

4. 最後に

現金負担ゼロで事業承継ができるようになったことなど、メリットが大幅に拡充されたことから、特例措置の前提となる特例承継計画は8,800件以上提出されています。提出可能期間はあと約2年ですので、まだ提出されていない方は早めに着手していただきたいと思います。

一方で、事業継続を前提とした制度であるため、事業を止めた場合(資産管理会社になる)など一定の要件に該当した場合は猶予された税額に加えて利子税も払う必要があるなどのデメリットもあります。特例措置のメリット・デメリットを正確に理解したうえで、他の株式承継手法と比較検討したうえで、どのように株式承継を進めるかを考えることが望ましいと思います。

特に、事業承継税制は相続税に関する専門的な知識が必要とされるため、中小企業経営者が独自で利用・検討するのではなく、適用する場合には税理士等の専門家に相談のうえ、利用することをお勧めいたします。

 

【執筆者プロフィール】
北澤 淳(税理士)

<略歴>
平成23年 大手税理士法人入社
資産管理会社から上場会社、連結納税適用会社といった大規模法人まで各種法人の顧問業務、個人のお客様の所得税申告・相続税申告を初めとした各種税務申告から、事業承継・組織再編といったコンサルティング業務まで幅広く行う

平成28年 経済産業省中小企業庁事業環境部財務課 税制専門官
事業承継税制(平成29年度、平成30年度税制改正)の改正、同税制の前提となる経営承継円滑化法の政省令改正、マニュアル作成等を行う

令和3年 北澤淳税理士事務所開業

 <この記事に関連するサイト>
東商 事業承継支援ポータルサイト|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/jigyoshoukeiportal/