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【ナッジで行動を後押し】第6回(最終回)「ナッジを使いこなすには」

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※本記事は、東商新聞  7月20日号に掲載したコラムをWEBページ用に再編・掲載しています。


最終回である今回は、実際にナッジ活用を試みるにあたって気を付けてほしいポイントについて解説する。

まずは課題分析を

ナッジとしてよく用いられる手法には、顕著性の向上(目につきやすいデザインにする)、簡易化(選択肢を減らす、手続きの簡素化)、デフォルト変更(望ましい行動を初期設定の選択肢とする)などがある。
どれも取り組むハードルは高くないが、手軽さにかまけてやみくもに実施しても、効果は期待できない。
そこで、普段のビジネスにおける検討と同様、重要になってくるのが課題分析である。

まず、対象者が誰か、目標行動(行ってほしい行動)が何かを明らかにする。次に、対象者が目標行動を取れない要因(=ボトルネック)の分析を行う。
行動のボトルネックは、外的要因(社会・経済環境など)と内的要因(個人の知識、心理、認知など)に分けて考えることができる。
分析の結果、ボトルネックが内的かつ心理・認知要因(分かっているができない、思わずやってしまうなど)の場合には、ナッジが効果を発揮すると考えられる。

ここまでで説明した課題分析を、第4回で紹介した休暇促進の事例に当てはめてみよう。


警察庁の岐阜県情報通信部では、宿直明けに職員がなかなか休暇を取らないという問題があった。
そこで、まずは対象者を「宿直明けの職員」とし、目標行動を「休暇の取得」とした。
そして、休暇制度は整備されていたことから、外的要因ではなく、「上司や同僚の目がある中、休暇申請を出すことへの抵抗感・遠慮」という内的要因がボトルネックであると想定したのである。

以上の課題分析に基づき、「宿直明けの日を原則休暇とし、勤務する場合には申請を必要とする」というナッジ(デフォルト変更)を実施したところ、宿直明けの休暇取得者は3倍に増加した。

効果検証も忘れずに

ナッジの活用に際しては、効果検証を行い、改善を繰り返すことも重要である。
そこで、どのように効果検証を行うのかをあらかじめ設計した上でナッジを始めるようにしてほしい。
検証にも様々な方法があるが、ここでは、測定の精度が高いとされるランダム化比較試験(RCT)についてごく簡単に説明する。

RCTでは、対象者をランダムに2つのグループに分け、そのうち片方のグループ(介入群)にだけナッジを行い、もう片方(対照群)には何も行わない。
そして、ナッジの実施期間終了後に、各群の結果を比較することにより効果を測定する=図。

他にも、グループを分けずに、介入をする前と後で比較する方法など、多種多様な手法があるので、現場で実施しやすい手法を検討・採用してほしい。

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スラッジにご注意

本連載ではナッジの魅力を紹介してきたが、残念ながら、「本人にとって良い選択を後押しする」という本来の目的が見失われた、悪いナッジ(sludge【ヘドロ】)になってしまっている事例も存在する。
誘導する側の利益を優先し、誘導される側の利益を損なうようなナッジや、誘導したい選択肢以外を極端に選びづらくしているナッジはスラッジだと言える。
スラッジとならないよう注意しつつ、ナッジの検討をぜひ進めてほしい。

 

【執筆者プロフィール】
小林 健太郎

NTTデータ経営研究所・コンサルタント
※本連載は同研究所シニアマネージャー 北野浩之、マネージャー 小林洋子、コンサルタント 小林健太郎の3者が担当する。

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