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【連載】渋沢栄一の言葉~著書から読み解く“不変の「王道」” Vol.8

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東京商工会議所の初代会頭であり、500を超える企業の設立に関わった渋沢栄一は、実に多くの言葉を残してきました。現代の経営においてもその言葉は力を持ち、不変の王道として、たゆまなくその意志をつなぐことが求められているのではないでしょうか。
このコーナーでは、東商新聞  で連載中の「渋沢栄一の言葉」を、順次紹介していきます。


我々は今日ただいま、
心酔の時代と袂別(べいべつ)せぬばならぬ。
模倣の時代から去って、自発自得の域に入らねばならぬ。

【論語と算盤】:模倣時代に別れよ より

 
模範とは「見習うべき手本」です。
しかしながら、模範とは自ら創り出す精神が鈍り、他者の真似事に陥る側面もあります。
ハウツウ本が書店で溢れている社会現象も模倣。
周囲の空気を読んで尻込みする傾向も模倣です。

「自分は良いと思いますが、これでは会社に通らないです」
「世間から何を言われるかわからないから止めておきましょう」
これらも模倣の時代の現象と言えるでしょう。

ある意味で、自己を肯定するために模範を必要とするのでしょう。
人間は楽をしたいという本能があるから模範を求め、かえって思考停止を招いているのかもしれません。

現在の世の中はインターネットなどで情報が溢れてオーバーフローが生じるので、自分が好む情報だけを選択する傾向もあります。
ただ、新しい考え方や行動力を持ち込む異なる視点や異分子は社会の活性化には不可欠であり、それは渋沢栄一の時代でも現代でも変わりません。

「当局者に一言して置きたい事は、奨励は大いにこれを努めねばならぬが、不自然不相応の奨励を行えばついに無理ができる」と栄一は指摘していますが、既得権益者に不都合が生じそうだから、本質論ではなく、感情論で政策議論が頓挫する傾向も、外見しか見ていない模倣の弊害です

自ら壁を立てる排外思想を模範とすれば、社会の活性は損なわれてしまいます。

(東商新聞2017年2月20日号 掲載)

 

軍事上の事務のように一々上官の命令を待っているようでは、
とかく好機を逸し易いので
何事も命令を受けてやると云う具合では一寸発達ということはむずかしいのである。

【論語と算盤】:理論より実際 より


「昔」と比べると「今」の若者や教育に課題があるという指摘をよく耳にします。
ただ、それは「今」に限られたことではなく、栄一の時代でも同じでした。

「教育のやり方を見ると単に智識を授けるということのみ重きを置き過ぎている」
「学生の気風を見ると、昔の青年の気風と違って今一と呼吸という勇気と努力、それから自覚とが欠けている」

「論語と算盤」の初版が出版された大正5(1916)年当時に、このように耳が痛いことを言われた学生の世代が現役の40代になって、それぞれの組織の責任の中核となった時代。
日本は戦争へと迷走しました。
そういう意味では栄一の「何ごとも命令を受けてやる」という嘆きは、的を得た警告でした。

戦争の傷跡が消え去った平和な時代においても「軍事上の事務」が、「サラリーマン上の事務」という組織体が入れ替わっただけで、日本人の性質は変わっていないと感じる側面も多々あります。

ただ、日本の軍事主義が崩壊したように、前例や命令を待つようなサラリーマン主義にも崩壊の兆候が見えているのが「今」です
好機を逃がさないような人材が不可欠であることは明白ですが、「今」の教育や経営のあり方でそのチャレンジに応えられるのでしょうか。

(東商新聞2017年3月20日号 掲載)

<この記事に関連するサイト>
渋沢栄一 特設サイト|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/shibusawa/

 

渋澤 健(しぶさわ けん)
【執筆者プロフィール】
渋澤 健(しぶさわ けん)

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役
コモンズ投信株式会社取締役会長

<略歴>
複数の外資系金融機関でマーケット業務に携わり、2001年にシブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業し代表取締役に就任。07年にコモンズ株式会社(現コモンズ投信株式会社)を創業、08年に会長に就任。経済同友会幹事およびアフリカ開発支援戦略PT副委員長、UNDP(国連開発計画)SDG Impact運営委員会委員、東京大学社会連携本部顧問、等。著書に「渋沢栄一100の訓言」、「SDGs投資」、「渋沢栄一の折れない心をつくる33の教え」、他。

シブサワ・アンド・カンパニー
http://www.shibusawa-co.jp/index.htm