※本記事は、東商新聞 6月20日号に掲載したコラムをWEBページ用に再編・掲載しています。
人間の意思決定の不合理さを前提としたナッジをビジネスでどう活用するか。
今回は「健康経営」の観点から、ナッジの活用事例を紹介する。
健康経営の重要性
人口減少局面に移ったわが国の中小企業にとって、人材確保は喫緊の課題だ。
働き手から選ばれる企業を一つの基準で測ることは困難だが、生涯年収やネームバリュー以外にも中小企業が選択可能な解として、ホワイト企業、すなわち労働環境や従業員の健康に配慮した会社となることが挙げられる。
いわゆる健康経営の取り組みは、生産性向上や会社の信頼性向上などの点からも求められており、企業にもたらされるメリットは大きい。
健康経営の取り組みは大企業を中心に増えつつあるが、中小企業への広がりは時間を要している。
特に、公的認証の取得自体が目的となり、実際の労働環境の改善や働き方改革につながっていないケースも散見される。
また、健康経営に限らず、そもそも健康的な行動に変容させるための仕掛けが未成熟といった事情も考えられる。
健康経営の目的は、従業員の健康行動や生産性向上を促し、企業の持続的な成長につなげることにある。
では、行動変容を促すためにはどのような取り組みが効果的なのだろうか。
健康経営への行動デザイン活用
行動を規定する要素は、能力(知識形成)、動機(情動)、機会(外部環境)の3つがあり、これらを組み合わせることでより大きな行動変容の効果が期待できる。
例えば、昨今流行りの健康ポイントのような金銭的報酬(インセンティブ)には動機付けの効果が一定程度あるが、この金銭的報酬に社会的支援や比較・競争などを組み合わせることで、行動変容効果がおよそ2倍になることが研究されている=図。
これを踏まえて、健康的な行動に変容させるための手法を紹介したい。
まず動機付けの点からは、金銭的報酬として現金として使えるポイントなどの付与がある。
歩数に応じて付与したり、健診や特定保健指導の受診に応じて与えるなどバリエーションは様々である。
他には、目標を自身が決めることで行動変容を促す手法(コミットメント)があるが、初めに簡単に達成できる小さい目標を設定し、クリアする度に大きくしていくことがポイントだ(目標勾配効果)。
なお、これらの手法は海外の研究でも根拠が明らかとされている。
機会を改善する方法として、昼休みや終業前後の空いた会議室を使いヨガ教室を開催するなど、参加障壁を下げる手法もある。
さらに、動機付けと機会の組み合わせとして、健康行動にチームで取り組む手法も効果がある(同調効果)。
複数人のチームで励まし合って行動変容を促す手法だが、非喫煙者を混合した3人の禁煙チームを作る、部署対抗にするなど組み合わせは多様だ。
健康増進を主導するCHO(Chief Healthcare Officer)の設置も、社内外への強いメッセージとして効果が期待できる。
ナッジの活用により、健康経営に取り組む企業が増え、労働環境の改善が進み、中小企業の持続性が高まることを願う。
次回はナッジをより使いこなすために、良いナッジ・悪いナッジの事例や成果の測り方を紹介する。
NTTデータ経営研究所・シニアマネージャー
※本連載は同研究所シニアマネージャー 北野浩之、マネージャー 小林洋子、コンサルタント 小林健太郎の3者が担当する。
<この記事に関連するサイト>
東商新聞 デジタル版(最新号・バックナンバー)
https://www.tokyo-cci.or.jp/newspaper/
健康経営倶楽部|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/kenkokeiei-club/