業務改善やIT導入を進めるにあたり、ヒト・モノ・カネ・情報の流れを見える化できる「業務フロー図」は、基本的ですが有効な手法です。
その意味で、業務に携わる方ご自身が、業務フロー図を書き、業務に対する理解・認識を深めることが望ましいのですが、業務フロー図を書くことが難しいと感じられ、敬遠されるケースも多いようです。
そうしたこともあり、私が企業のご支援に伺った際、支援先ご担当者の代わりに業務フロー図を書くことがあります。
本コラムでは、私が業務フロー図を作成する際に注意しているポイントを、いくつかお示ししたいと思います。
皆さまの業務改善の一助となれば幸いです。
業務フロー図の作成準備
目的を明確にする
業務フロー図の作成を開始する際、「テレワークを推進するためにリモートで行える業務を抽出する」「受発注システムを構築するためIT化可能な業務を明確にする」といった、業務フロー図を作成する目的を、まずは明確にします。
目的については、2つの観点を考慮します。
- 作成用途:業務マニュアルの作成、業務改善のための問題点の抽出など、業務フロー図を作成して何をしたいか?
- 対象業務:大枠で何の業務を対象としたいのか?
業務フロー図を作成時に目的を意識することは、後で述べる業務内容の洗い出しや業務フローの境界を検討する上で大事なことになります。
例えば、黒板にて業務フローを板書する際は、白板の上部に目的を明記するなどして、忘れないようにする工夫をします。
業務フローの作成ルールを用意する
何名かで分担して業務フロー図を作成する場合は、業務フローで使用する記号の種類、形状といった記載ルールを決めておきましょう。
具体的には、業務フローやビジネスモデリングの手法毎の定義をご参考にしてください。
例えば、JIS X 0121 – 1986では、情報処理用流れ図の記号、名前や内容が規格となっています。
業務フロー図の作成
業務内容を洗い出す
業務フロー図の良いところは、業務内容を5W1Hでカンタンに図示できることです。
- What:業務フロー図で行う作業を四角形等で示します
- Who:Where:業務フローの中の業務を行う組織、実施者をレーンで示します
- Whom:関係者間の業務を矢印等で連結させます
- When:時系列で業務の流れを記述していきます
- How:業務を連結する際に、モノや情報の流れを意識してつなげていきます。また備考欄や吹き出しなどで、詳細をメモします
ただし、いきなり業務フロー図に表すのは難しいものです。
まずは、5W1Hを意識して、一連の業務を文章で書いてみたり、関係者にヒアリングを行って自由に話してもらった後、その内容を5W1Hで整理し直した上で業務フロー図を作成してみたりすると良いでしょう。
業務フローの境界を意識する
業務フローの境界については、次の2つの観点で、業務フローの境界を意識することが重要です。
業務の始点・終点
業務フロー図を書く上で、どこから始めるか、何ができれば終了とするかが大事です。
例えば、お問合せ対応を記した業務フローであれば、一般にはお客様がお問合せを行ってから回答結果を受け取って対応をクローズするまでを記述します。
しかし、お問合せ業務の改善を図る上では、その前段階のお客様がお問合せするに至った経緯等を確認するケースもあります。
もし、お問合せまでにお客様がマニュアルを確認している場合、そのマニュアルに過去の問合せ履歴に基づくFAQがなければ、本来対応しなくてよいお問合せが来てしまう可能性があります。
問題点が潜んでいる場合は検討する範囲を広げ、業務フロー図を作成すべきでしょう。
ただし、やみくもに広げると検討量が増えるとともに、作成目的が不明確になってしまうこともあるので、範囲は適宜調整していくことになります。
関係者
先ほどの問合せの業務フローであれば、関係者は、問合せする人と、社内で問合せに対応する人に留まるのは不十分で、マニュアル作成担当者を追加して、問合せ履歴の共有や、業務マニュアルの更新フロー等の業務フロー図を、必要に応じて追加していく必要もあるでしょう。
業務の粒度を意識する
業務の目的によって、業務フロー図をどこまで細かく書くかが変わってきます。
例えば、新たに業務を立ち上げる時には、まずは関係者の役割を明確にするため、大ぐくりの業務粒度で、概要レベルでの業務フローを作成すればよい場合もありますし、問題の解決を行うためには、作業レベルまで細かく業務を落とし込むことが必要な場合もあります。
作成目的を意識しながら、業務の粒度を必要に応じ決めていくことになります。
業務フロー図の見直し
現状の業務を細かくフロー化していくと、業務間のつながりが絡み合った、スパゲッティ状態となっていたり、何度も重複した業務が出てきたりといった、非常にわかりにくいものになっていることが多いです。
そうした非効率な業務フローを改善していく場合には、業務フロー図全体を見渡して、問題点を明確にし、あるべき姿に書き直していきます。
その際に、「ECRSの原則」が役立ちます。
ECRSの原則とは、業務改善を実視する上で、見直しの観点と順番と示したものです。
作成した個々の業務や、業務間のつながりについて、
- E(Eliminate:業務自体をなくせないか)
- C(Combine:複数の業務を一緒にできないか)
- R(Rearrange:業務の順序を変更できないか)
- S(Simplify:業務の手順を単純化できないか)
といった順序で見直して、業務フロー図を整理していきます。
最後はできるだけシンプルに
見直した業務フロー図を関係者で共有して新しい業務フローで運用する場合には、関係者の作業を容易にするために、先ほどのECRSの原則等を頭に入れながら、できるだけ業務フロー図をシンプルなものにしたほうが良いでしょう。
まとめ
ここまで申し上げたようなポイントは、単に業務フロー図を書くことだけではなく、様々な用途で利用できます。例えば、
- ホームページにおいて問合せを増やす等コンバージョン率を高めるために導線を見直す
- お客様との新たなサービス提供内容を検討する
といった場合にも、同様な流れでプロセスの構築や改善を図ることができます。
業務フロー図が書けない、わかりにくいということは、自社内にムリ・ムラ・ムダがあり、業務の生産性を損ねているだけでなく、お客様へのサービス低下や、受注獲得機会の逸失にもつながります。
もちろん慣れが必要な部分もありますが、業務改善・生産性向上の第一歩として、まずは気軽に業務フロー図を書いて、自らの仕事を見える化してみることをお勧めします。
なお、業務フロー図を作成する上での支援ツールについては、業務フロー、ビジネスモデリングの各種手法により様々なツールが提供されています。
各ツールのマニュアルやライセンス条項を確認の上ご利用ください。
前述のJISベースの業務フローについては、業務フロー作成ツールのように、エクセルのアドインを用いて、無料で利用できるものもあります。

ソフトウェア開発や財務会計等の業務に従事した後、ERP研究推進フォーラム(現在解散)において、バランス・スコアカードを活用したIT投資マネジメントツールの手法開発、普及に従事。
現在は、各種ITサービスの企画・運用設計や業務プロセスの改善に取り組む一方で、ITコーディネータ・中小企業診断士の立場で、東京都内を中心に中小企業のWebサイト構築等を支援。
2013年ITコーディネータ認定(認定番号0103622012C)
<この記事に関連するサイト>
はじめてIT活用|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/hajimete-it/