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【連載】渋沢栄一の言葉~著書から読み解く“不変の「王道」” Vol.6

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東京商工会議所の初代会頭であり、500を超える企業の設立に関わった渋沢栄一は、実に多くの言葉を残してきました。現代の経営においてもその言葉は力を持ち、不変の王道として、たゆまなくその意志をつなぐことが求められているのではないでしょうか。
このコーナーでは、東商新聞  で連載中の「渋沢栄一の言葉」を、順次紹介していきます。


一寸(ちょっと)道を通りかかっても、
此方(こなた)は自尊だから己(おれ)は逃げないといって、
自働車(じどうしゃ)などに突き当たっては、
とんだ間違いが起こる。
かかるものは元気ではなかろうと思う。

【論語と算盤】:誤解され易き元気 より

 
広辞苑によると、元気とは「活動の源となる気力」です。
そういう意味では、「元気」と福沢諭吉先生が唱えた「独立自尊」との親和性が高いです。

「自ら助け、自ら守り、自ら治め、自ら活きる、これらと同様な自尊なれば宜い」と渋沢栄一も指摘しています。

ただ、「オレ、オレ」という強情を張ることと自尊を履き違えば、とんだ間違いが起こる可能性が高まります。
やはり、その時に応じた的確な行動が自尊に伴うことが必要です。

「『哲人見機誠之思、志士属行致之為』(哲人、機を見てこれが思いを誠にし、志士属行これが為を致す)との句」を栄一は引用します。
元気の源は自分のココロの中にあるようです。外形だけでは元気は判断できません。

日本経済の元気を取り戻すために、日本銀行の更なる金融緩和、日本政府の財政出動への期待で様々な数値目標が掲げられています。
ただ、これらは外形な元気の姿に過ぎません。
元気の源とは経済のココロの中、つまり、構造にあります。
元気な日本のためには、その構造改革が待ったなしです。


(東商新聞2016年8月20日号 掲載)

 

事に当たって変化せねばならぬようなことがあるならば、
宜しく再三再四熟慮するが宜(よ)い。
事を急激に決せず、慎重の態度をもって、よく思い深く考へるならば、
自ずから心眼の開くものもありて、
遂に自己本心の住家に立ち帰ることができる。

【論語と算盤】:平生の心掛が大切 より


初志貫徹は日本人の尊ぶべき美徳です。
ただ、75年ぐらい前の日本の指導部は国を挙げて目標を定めましたが、想定どおりに事が進まなかった現実を直視せず、とてつもない悲劇を招きました。
現状を正確に把握せずに突進することは多大な犠牲を払うことに陥ります。

また、日本企業は海外進出や新規事業に対して再三再四熟慮する傾向があり、他国の企業と比べて消極的なスタンスが目立ちます。
「日本人は、意思決定には時間がかかるけれども、一旦決まったら、とことんやる」という弁解も聞こえてきますが。

ただ、これは同じコインの表裏のように、「日本人は、一旦決まったら、変えることができないんだ」という欠点も示しています。
前任の経営方針を変えず、社内にアンタッチャブルをつくって、不正事件まで招いてしまった。
このような出来事は残念ながら少なくありません。

あらゆる手段で目標達成を強引に進めることより、達成できなかった現実に自ら心眼を開く再検証によって、自己本心の住家へ立ち帰る心掛けも大事ではないでしょうか。

(東商新聞2016年10月1日号 掲載)

<この記事に関連するサイト>
渋沢栄一 特設サイト|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/shibusawa/

 

渋澤 健(しぶさわ けん)
【執筆者プロフィール】
渋澤 健(しぶさわ けん)

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役
コモンズ投信株式会社取締役会長

<略歴>
複数の外資系金融機関でマーケット業務に携わり、2001年にシブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業し代表取締役に就任。07年にコモンズ株式会社(現コモンズ投信株式会社)を創業、08年に会長に就任。経済同友会幹事およびアフリカ開発支援戦略PT副委員長、UNDP(国連開発計画)SDG Impact運営委員会委員、東京大学社会連携本部顧問、等。著書に「渋沢栄一100の訓言」、「SDGs投資」、「渋沢栄一の折れない心をつくる33の教え」、他。

シブサワ・アンド・カンパニー
http://www.shibusawa-co.jp/index.htm