※本記事は、東商新聞 5月20日号に掲載したコラムをWEBページ用に再編・掲載しています。
前回はマーケティングにおけるナッジの活用方法を紹介したが、今回は社内の業務改善や働き方改革にもナッジを活用できることを示す。
※前回記事はこちら
意思決定の質を高める
私たちは、一度正しいと思い込んでしまうと、その後はどのような情報であっても自分に都合の良い解釈をしてしまう「確証バイアス」を持っている。
加えて、一度資金や労力を投じた事柄については、リターンの見込みがなくなっても撤退できなくなってしまう「サンクコストバイアス」も保有しており、誤った意思決定の原因となる。
これに有効な対策は、「反論」をルール化することである。
立案の際には、欠点やリスクの記載を義務化したり、チームで意思決定する場合には、あえて反論担当のメンバーを設けたりするのである。
このような取り組みにより、「思い込み」の枷が外れ、より良い意思決定を行えるようになる。
作業計画の実効性を高める
納期や締め切りの直前になって「作業の見積もりが甘かった」と後悔した経験が誰しもあるのではないだろうか。
それもそのはず、人間は作業予定を立てる際に、かかる時間をとても少なく見積もるという認知バイアス「計画錯誤」を持っているのだ。
これに気が付いたマイクロソフト社は、担当者が立案したプロジェクトスケジュールに、自動的にバッファータイム(ゆとり)を付加するという対策を取った。
過去の遅延データを分析し、ワードやエクセルなどのアプリケーション開発では当初予定の30%、基本ソフトの開発など一層複雑なプロジェクトでは50%のバッファーを加味したのだ。
これにより、作業計画はより実効性の高いものとなり、トラブルの低減にもつながった。
残業時間を削減する
働き方改革が進む中で、残業時間の削減は企業の重要課題となっているが、ここでもナッジが活きてくる。
看護師の長時間労働を改善しようと熊本地域医療センターは、日勤と夜勤の看護師で制服の色を変えるという方法を取った=図。
「直感的デザイン」と呼ばれるナッジ手法に該当するこの工夫により、勤務シフトが周囲から一目で分かるようになったため、勤務終了が近い人に仕事を頼むことが大きく減り、取り組み前には1人当たり年間約110時間あった残業が、2年後には5分の1の約20時間にまで削減された。
休暇の取得を促進する
人間には、変化を起こすことに大きなコストを感じるという「現状維持バイアス」がある。
これを逆手に取ったのが、「デフォルト設定」と呼ばれるナッジ手法である。
望ましい選択や行動を初期設定(デフォルト)とし、他の選択・行動をするためには「わざわざ変更する」というコストを負わせることで望ましい選択・行動を促すのだ。
警察庁中部管区警察局の岐阜県情報通信部では、宿直の翌日に休暇を取ることをデフォルトとし、続けて勤務する際には上司へ申請しなければいけないというルールを設けた。
その結果、休暇を取るのに申請が必要だった年に比べ、宿直明けの休暇取得人数は3倍近く増加した。
ナッジの利点の一つは、コストをあまりかけることなく導入できる点にある。
今回紹介した取り組みをぜひ職場で実践し、業務改善・働き方改革の一助としてもらえれば幸いである。
次回は、健康経営の推進にもナッジが効果を発揮するという事例を紹介する。
NTTデータ経営研究所・コンサルタント
※本連載は同研究所シニアマネージャー 北野浩之、マネージャー 小林洋子、コンサルタント 小林健太郎の3者が担当する。
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