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【ナッジで行動を後押し】第3回「マーケティングを効果的に」

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※本記事は、東商新聞  4月20日号に掲載したコラムをWEBページ用に再編・掲載しています。


私たちは自分の選択や行動は意識的に考えた結果だと思いがちだが、意外と反射的で無意識に決めていることが多く、これらの潜在意識に左右されるパターンが理論化されていることを前回解説した。

※前回記事はこちら


今回からは、ビジネスにおけるナッジの活用事例を紹介する。

マーケティングの効果を上げるには、広告掲載や電話をかける回数を増やす、営業体制を強化するなどが考えられるが、多くの時間や資金を費やすため、顧客の脳の働き、意思決定パターンを利用したマーケティング「ニューロ・マーケティング」の活用を勧めたい。

フレーミング効果を使う

「当社のサービスは90%のお客様に満足と評価されています」と「10人中9人のお客様に満足と評価されています」。
どちらの表現が効果的だろうか。

ニューロ・マーケティングの世界では数字を割合で示す場合と、絶対数で示す場合では後者の方が効果がある(フレーミング効果)。
つまり、ポジティブなメッセージを伝えたいときは絶対数が効果的だ。

逆にネガティブな情報を伝える場合は割合が良い。
「当社の商品の故障はわずか1%」の方が「故障は100台中わずか1台」よりも必要以上に悪いイメージを持たれない。
絶対数で示すと、実在する1台が壊れることを人は想像するからである。

ポイント付与を効果的に

マーケティングの一つとして顧客向けにポイントを付与している企業も多いだろう。
この時、「目標勾配仮説」を使うと効果を上げることができる。

同仮説によると、人は目標に近づくほど達成するために多くの努力を払うようになる。
例えば、スタンプ10個でコーヒーが一杯無料で飲めるカードは、スタンプが10個に近づくにつれて来店頻度が上がることが知られている。

ここで興味深い実験がある。
片方のグループにはスタンプを10カ所押すカードを、もう片方には12個のスタンプが必要だがすでに2カ所押されているカードを渡す(=図)。
どちらも必要なスタンプ数は同じだが、ゴールに向かって前進していると感じられる状態でスタートする後者のグループの方が、コーヒーの購入頻度が高かった。

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ほかには、スタートダッシュで目標金額の一定割合を達成することを促したり、プロジェクト終了前にカウントダウンを行うクラウドファンディングでも同様の仮説が上手く活用されている。

顧客行動を変えるサイトデザイン

ナッジはサイトのクリックを促す場面でも使える。

国連によるジェンダー平等のための社会連帯運動である「HeForShe」では、男性の参加を促すことが課題だった。
支援した行動デザインの専門コンサルティング会社によると、男性視点での行動の阻害要因は、①HeForSheが自分事として捉えにくい、②何をすればいいか分からない、③登録が面倒の3点だと判明。
そこで、ウェブサイトに「I commit(参加します)」のフリップを掲げた男性の写真を多く載せ、世界中で参加を宣言した数を示すカウンターを掲載、「参加は無料、たった10秒で完了」の説明を追加した結果、参加者数が2%から24%に向上したという。

ナッジは少ないリソースで高い効果を挙げられる。
そのため企業や行政で広く使われているが、売れ残った商品に誘導する、極端に他の選択肢を選びにくくするなど悪用もされかねない。
ナッジの目的は、合理的な行動を取れずに困っている人を後押しすること。その認識を忘れないようにしたい。

 

【執筆者プロフィール】
小林 洋子

NTTデータ経営研究所・マネージャー
※本連載は同研究所シニアマネージャー 北野浩之、マネージャー 小林洋子、コンサルタント 小林健太郎の3者が担当する。

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