ー産業医から元気に働くためのアドバイスー
現在、新型コロナウイルス感染対策の中で、新しい働き方における健康を保つための工夫がよりいっそう大切になってきています。
そこで、東京商工会議所では、計8回(コラム7回+まとめ1回)にわたって、働き方の新しいスタイルにおける「こころの健康」を保つコツについてご紹介していきます。
※本記事は、日頃から人事・総務担当者や管理職、労働者からの様々な相談に対応されているヘルスデザイン株式会社の坂本先生(産業医・労働衛生コンサルタント)に執筆にご協力いただいています。
前回は、在宅勤務中に、自分で体調を整えていくセルフケアのポイントをご紹介しました。
※前回記事はこちら
しかし、在宅勤務中に何らかのストレスを感じて、体調が優れない社員が出てくるかもしれません。
このような時に管理職はどのような対応をしていけば良いのでしょうか?
今回は調子を崩した部下への対応のポイントを一緒に確認してみましょう。
1. 部下の不調に気づく
まずは、部下の不調に気づくことから始まります。
在宅勤務では、通常の出勤時の対応と比べて工夫が必要です。
これについては第3回目と第4回目のコラムにて紹介していますので、確認してみてください。
ポイントは、部下のいつもの様子とは違うことにオンラインツールを活用して気づき、声をかけて、傾聴していくということでした。
この一連のアプローチによって、部下の不調に気づき、放置することなく対応しましょう。
「分かっちゃいるけどやめられない」という言葉のように、「(部下の不調に)気づいているけど、対応しない」ということがないように日頃から心がけましょう。
2. プライバシーに配慮して
部下へ声かけを行う際のポイントをもう一つ確認します。
それは、在宅勤務時の体調確認の声かけとして、オンライン会議で皆に呼びかけることはOKですが、個別に部下を心配して声かけをかける時は、「1対1」の場面にしてください。
管理職として、「仕事に支障が出ているように感じるので、体調は大丈夫ですか?心配しています」という体調確認とともに、「何かあればいつでも相談してほしい」というメッセージも添えてアプローチを続けて行いましょう。
3. 管理職が抱え込みすぎない
部下の相談を受けていると、「憂うつ、不安、眠れない、朝起きると吐き気がする」などの健康に関する悩み事が出てくることがあります。
これに対して管理職が助言することは難しいかもしれません。
もしくは、部下の対応に管理職が振り回されてしまう場合があります。
部下から管理職へ仕事の配慮の要求事項が強くなり、管理職がどう対応すればよいのか困惑してしまうケースです。
このような場合には、部下の対応を管理職ひとりで抱え込まずに、自分の上長や人事総務部門に相談したり、産業医や保健師、医療機関につないだりすることを考えてみてください。
4. 専門家につなぐ
自分の上長や人事総務部門に相談することで、部下の状況を改善できるケースは多々あります。
ただ、健康問題が絡んでいる場合には、専門家の対応も検討してください。
会社に産業医や保健師がいれば、相談してみてください。
私も日頃、産業医として心の調子を崩した方々に対して面談していますが、管理職から部下の健康問題について、早めに情報連携いただいた場合は、早期回復が上手く行きやすいと実感しています。
また、上司には言いづらいことを産業医や保健師に話してくれたり、人間関係や長時間労働など様々なストレス源に対して、専門職の立場から介入を図ったりできます。
50人未満の企業では、産業医や保健師との契約がない場合もあります。
このような場合でも、社外の専門家とつながることは可能です。
例えば、下記のような相談窓口があります。
■ 外部の相談窓口の例
・厚生労働省 働く人の「こころの耳電話相談」
https://kokoro.mhlw.go.jp/tel-soudan/
・産業保健総合支援センターに問い合わせる
・ストレスチェックの実施機関や健康診断実施機関に相談する
・産業医や保健師の請負委託会社の相談対応サービスを活用する
・会社が契約している社会保険労務士に相談する など
何か困ったときに相談できる外部相談窓口を日頃から見つけておくと良いと思います。
弊社でも、産業医や保健師が50人未満の企業から健康相談をオンラインで対応していますが、メールや電話で人事担当者の方から、
「調子が悪そうな社員がいるのだが、どう対応すれば良い?」
「病院の診断書が出たがどう対応すれば良い?」
「職場復帰の前に一度、体調確認の面談をしてほしい」
といった相談が寄せられています。
5. 病院受診について
心身の不調が続く場合には、医療機関の受診が必要です。
心の健康については、心療内科や精神科が担当科となります。
医療機関を探す際には、インターネットの検索サイトで「心療内科 〇〇駅(←最寄りの駅名を入れる)」という単語を入れて検索したり、各都道府県の医療機関検索サイトなどを利用したりすると良いでしょう。
・各都道府県の精神科・心療内科などの医療機関検索
https://kokoro.mhlw.go.jp/facility/
・東京都医療機関検索ひまわり
https://www.himawari.metro.tokyo.jp/qq13/qqport/tomintop/
初めて心療内科や精神科にかかる人は、「何を聞かれるのだろう?」「薬を飲むことになるのだろうか・・」「うつ病と診断されたらどうしよう・・」などのように受診をためらう方がいます。
このような時には、「受診をしたくない」という気持ちを、まずは管理職としても受け止めてあげてください。
そして、「なんでもなければその方が良いのだから、念のために受診相談してみてはどうか?」「今のつらい体調を、良い方向にしていくために、一度、専門家に見てもらおう」などのように部下を優しく誘導してあげてください。
多くの場合では、「受診したほうがよい」と感じつつも、先ほどの不安な考えとの板挟みになっているようです。
心配する気持ちに向き合いながら、今後の見通しも一緒に考えていくことで、自然と受診に前向きになってくれるはずです。
また、「もう少しこのまま頑張ってみたい・・」とついつい受診を先延ばしにしてしまう場合も散見されます。
しかし、辛いまま働き続けるのは、結果として体調の回復が遅くなってしまうことがあります。
「勇気を持って休養して、回復したらまた会社に貢献していけば良いのだから安心して」と伝えるなど、療養することを大切にしてほしいと思います。
このように早めに医療機関を受診してもらいたいところですが、現状では、受診予約が必要な場合が多く、予約日が2週間や1ヶ月待ちということも少なくありません。
しかし、それでもまずは受診予約をして予定を立てて下さい。
社員が医療機関を受診するまでは、仕事の負荷を取り除いたり、年次有給休暇を使って仕事から離れて生活したりできるように、管理監督者や人事担当者が一緒になってサポートしてあげてください。
以上、心の不調が疑われる部下への対応と、専門家や医療機関へのつなぎ方についてご紹介しました。
部下の不調を放置することなく、声をかけて、傾聴して、適切な対応につなげていただければと思います。
さて、次回は最終回です。
在宅勤務をする中でのこころの健康管理について、今までの総まとめをしたいと思います。
<参考情報>
東京産業保健総合支援センター
https://www.tokyos.johas.go.jp/inquiry.html
e-ラーニングで学ぶ 15分でわかるラインによるケア
https://kokoro.mhlw.go.jp/linecare/data/e-learning.pdf
各都道府県の精神科・心療内科などの医療機関検索
https://kokoro.mhlw.go.jp/facility/
東京都医療機関検索ひまわり
https://www.himawari.metro.tokyo.jp/qq13/qqport/tomintop/
ヘルスデザイン株式会社 小規模事業所支援
https://health-d.co.jp/service/service06.html
管理監督者にお願いしたい3つのこと
https://electricdoc.net/wp-content/uploads/2012/08/slide.pdf

産業医科大学を卒業し、臨床医の経験と専属産業医(製造業)の経験を生かして、より多くの中小企業で働く方々の健康を支援するために、様々な業種や規模の嘱託産業医として活動している。
活動内容は産業医業務に加えて、小規模企業でも健診結果の確認や教育セミナーを開催し、健康管理を行っている。専門は中小企業での健康支援と産業保健マーケティング。
日本産業衛生学会評議員、日本産業ストレス学会理事、さんぽ会幹事。
資格:産業医(指導医)、公衆衛生学修士、博士(医学)、労働衛生コンサルタント(保健衛生)、健康経営エキスパートアドバイザー
ヘルスデザイン株式会社
https://health-d.co.jp/corporate/
<この記事に関連するサイト>
健康経営倶楽部|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/kenkokeiei-club/