ー産業医から元気に働くためのアドバイスー
現在、新型コロナウイルス感染対策の中で、新しい働き方における健康を保つための工夫がよりいっそう大切になってきています。
そこで、東京商工会議所では、計8回(コラム7回+まとめ1回)にわたって、働き方の新しいスタイルにおける「こころの健康」を保つコツについてご紹介していきます。
※本記事は、日頃から人事・総務担当者や管理職、労働者からの様々な相談に対応されているヘルスデザイン株式会社の坂本先生(産業医・労働衛生コンサルタント)に執筆にご協力いただいています。
前回は、在宅勤務中のこころの健康を整える方法(セルフケア)として、生活リズム・睡眠の整え方について紹介しました。
※前回記事はこちら
今回は前回からの続きとして、呼吸や筋肉、姿勢、気持ちという4つのセルフケアの方法をご紹介します。
それでは一緒に、自分に合ったセルフケアの方法を見つけていきましょう!
1. 呼吸を整える(腹式呼吸)
自律神経を整えると、こころの調子を整えることにつながります。
しかし、自律神経は自分の意思で思い通りに整えることはできません。
例えば、自律神経で支配されている心臓を自分の意思で、「心臓早く動け!ゆっくり動け」などと命令しても自由に心臓の鼓動は動かせませんよね?
さて、呼吸も心臓と同じように自律神経で支配されているのですが、実は筋肉を使うことによって自分で調整することができます。
そのため、呼吸を意識的に整えることによって、自律神経も整えることができ、こころの調子も整ってきます。
腹式呼吸のやり方
(1)鼻から息を、おなかが膨らませるように吸い込みます(この時に、肩が上がらないように)
(2)次に、おなかをへこませるようにして、口からゆっくりと吐きます(息を吸う時よりも吐く時が長くなるようにしてみてください)
(1)と(2)の呼吸を繰り返し行います。
これに慣れてきた方は、鼻から息を4秒間でおなかを膨らませるように吸い、7秒間息を止めたのちに、8秒間で口からお腹をへこませるように吐く呼吸にチャレンジしてみてください。(4-7-8呼吸法と呼ばれます)
2. 筋肉の緊張を整える(筋弛緩法)
自分では力を抜いているつもりでも、実は体には力が入っていて緊張している状態にあります。
体の筋肉が緊張し続けていると、血流が悪くなり、自律神経のバランスも悪くなっていきます。
これらを解消するため、体を脱力させてリラックスする方法が筋弛緩法です。
筋弛緩法のやり方
(1)まずは楽な姿勢をとりましょう(仰向けに寝ても、座っていても、立っていてもOK)
(2)両腕にゆっくりと力を入れていき、7割くらいの力を入れます
(3)筋肉に力を入れたまま、筋肉がこわばっている感じを味わいます(3~4呼吸ほど)
(4)次に、今まで入れていた力を「スッ」と一気に抜きます
(5)緊張がほどけていく感覚に注意を向けて、筋肉が緩んでいる状態を味わいます(3~4呼吸ほど)
(6)身体の各部分に対しても同様に行っていきます(例えば、両腕、こぶし、肩や首、お腹、両足、顔など)
筋肉の緊張と弛緩を繰り返して、自分の身体を解放して、こころもリラックスさせていきましょう。
3. 姿勢を整える ―パソコン作業にて―
デスクワークやオンラインコミュニケーションでは、パソコンを覗き込む姿勢が増えてしまいます。
その結果、肩が前傾になり、背中が丸まり、骨盤の位置も歪み、姿勢が悪くなってしまいます。
身体の不調は心の不調にもつながりますので、在宅作業での姿勢も整えていきましょう。
パソコン作業の姿勢のポイント
(1)パソコンを使うときは、目とパソコン画面を30-40cmほど離してください
(2)前傾姿勢にならないように意識しましょう
(3)座りっぱなしでは血流が滞っていきます。少なくとも1時間に1度は立ち上がって、歩くなどの動作を取り入れましょう。肩甲骨の間の筋肉を縮めるような体操も有効です。
<参考情報>
在宅勤務中の作業姿勢について(ヘルスデザイン株式会社)
https://health-d.co.jp/commentary/workposture_stretch/
肩こりの運動について(ARROWライブ配信49)
https://www.youtube.com/watch?v=J2LaYeORfgk&feature=youtu.be
4. 気持ちを整える(マインドフルネス)
過去にあんなことを言われた・・、うまくいかなかったらどうしよう・・、将来が不安だ・・等々。
過去や未来に気持ちがゆれ動いてしまうと、気持ちが揺れ動き、心の不調につながってしまいます。
このような気持ちを整える方法の一つに、マインドフルネスがあります。
マインドフルネス実践の3つのポイント
(1)「今ここでの経験」という瞬間に注意を向ける
(2)次々と起こってくる目の前の出来事について、「評価や判断を自分で加えることなく」、出来事をそのまま受け止める
(3)「今ここでの経験」や「評価や判断を加えることのない」という考え方を行う
私たちは日頃、なんとなく流れるままに考えたり、ぼーっと考えることがあると思います。
マインドフルネスでは、能動的な考え方を意識的に行って、気持ちを整えていきます。
マインドフルネスには、抑うつ症状や不安症状などのストレス反応を和らげる、集中力や創造力が高まるといった効果があります。
なお、マインドフルネスの実践については、慣れるための経験(トレーニング)も必要ですので、ご関心がある方は、以下の東京大学精神保健学教室が載せているマインドフルネスのページなどを参照してみてください。
<参考情報>
いまここケア
https://imacococare.net/mindfulness_1/
以上、自分自身で心の調子を整えるセルフケアについてご紹介してきました。
これらの方法以外にも、運動する、良い食事を摂る、同僚とコミュニケーションを取る、趣味を持つなど自分自身を整えるセルフケアの方法はまだまだたくさんあります。
セルフケアの引き出しを増やして、自分に合ったセルフケアの方法を見つけていきましょう。
次回(第7回)は、在宅勤務をする中で、どうしても調子が優れない場合はどうすれば良いのか、その時に管理職はどういったことに気をつければ良いのかについて、産業医の立場からお伝えしたいと思います。
<参考情報>
こころの耳 セルフケア
https://kokoro.mhlw.go.jp/selfcare/#5-1
睡眠のまとめ
https://health-d.co.jp/commentary/quality-of-sleep/
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html
健康づくりのための睡眠指針
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf
筋弛緩法、呼吸法 大阪府HP
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/13282/00000000/relax.pdf
※筋弛緩法や呼吸法は、インターネットで検索すると動画も見ることができるので役に立ちます。

産業医科大学を卒業し、臨床医の経験と専属産業医(製造業)の経験を生かして、より多くの中小企業で働く方々の健康を支援するために、様々な業種や規模の嘱託産業医として活動している。
活動内容は産業医業務に加えて、小規模企業でも健診結果の確認や教育セミナーを開催し、健康管理を行っている。専門は中小企業での健康支援と産業保健マーケティング。
日本産業衛生学会評議員、日本産業ストレス学会理事、さんぽ会幹事。
資格:産業医(指導医)、公衆衛生学修士、博士(医学)、労働衛生コンサルタント(保健衛生)、健康経営エキスパートアドバイザー
ヘルスデザイン株式会社
https://health-d.co.jp/corporate/
<この記事に関連するサイト>
健康経営倶楽部|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/kenkokeiei-club/