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【ナッジで行動を後押し】第2回「人は意外と不合理」

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※本記事は、東商新聞  4月10日号に掲載したコラムをWEBページ用に再編・掲載しています。


人が行動するきっかけをデザインする「ナッジ」。
ナッジが効果を発揮する背景の一つに行動科学という理論がある。
人は不合理な選択をしてしまうという行動原理を明らかにする学問で、心理学や脳科学、社会学、行動経済学などが含まれる。

不合理と聞いて腑に落ちない方も多いだろう。
10万円相当の商品券が当たるくじがあるとする。「100本中1本に当たりがある1,000円くじ」と「100本中99本がハズレの1,000円くじ」ではどちらのくじを購入したいと感じるだろうか。
行動科学では、人は損失を強調した表現、つまり後者の購入をためらう傾向があるとされる。利得と損失を比べたときに損失をより大きいものとして感じるからである(損失回避)。
同じ条件でも伝え方が異なるだけで意思決定が変わることを「フレーミング効果」という。

矛盾する気持ちや行為を同時に抱える不安定な状態を解消しようとする「認知不協和」も不合理な意思決定の一つである。
買うつもりはなかったが薦められて購入した物は好きになる(好みを変化させる)、努力したが獲得できなかったものを価値がないと考える、ダイエット中の食事を「今日は大丈夫」と正当化する、など思い当たる方も多いのではないだろうか。

他にも、選択肢が多過ぎると選ぶのが困難になり意思決定をしないが、選択肢が少ないと選択行動が促進される「選択過剰負荷」、正確な情報を調べずに友人・知人やメディアなど身近な情報で判断する「利用可能性ヒューリスティック」、周囲の人と同じ行動を選択して安心しようとする「ハーディング効果」、時間や労力を費やすと価値が高いと感じる「IKEA効果」などが不合理な意思決定として知られている。

人の選択や行動が不合理であることは理に適っていることでもある。
人には反射的で無意識の早い意思決定(システム1)論理的で意識的な熟慮の意思決定(システム2)の2つの意思決定メカニズムがあり、私たちはその2つを使い分けて生きている。
就職、結婚、旅行のようなライフイベントだけでなく、日々の食事、着替え、仕事、運動、買い物など人生は大小の意思決定の連続である。その一つ一つに熟慮システムを働かせていては間に合わない。
システム1を常時起動させて日常生活を送り、必要な場面でシステム2を起動させてバランスを取っているのである。

 

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どのように行動するべきかではなく、人が実際にどのように行動するかを前提にきっかけを作り、行動を後押しするのがナッジである。
ナッジのやり方は、①通常であればシステム1によって選択されない行動についてシステム2が起動するよう後押しする方法と、②システム1を前提に行動を後押しする方法がある。

前者の例は、運動をしたいがつい先延ばしにしてしまう人が「毎週日曜にジムに行く」などと周囲に宣言することで運動スイッチが入るようにする行動(コミットメント)。
後者の例は、ごみ箱を目立つ色に変え、地面に同じ色の足跡ステッカーを喫煙コーナーからゴミ箱まで貼り、吸い殻のポイ捨てを減らすような行動がある(顕著性の向上)。

人の選択や行動は「予想通りに不合理」(ダン・アリエリー著)であるため、その法則性を上手く使えば自分や家族、職場、社会をより良い方向にする行動を後押し(ナッジ)できる
次回は人の意思決定のクセを前提にしたナッジの活用について、企業で使える事例を中心に紹介する。

 

【執筆者プロフィール】
小林 洋子

NTTデータ経営研究所・マネージャー
※本連載は同研究所シニアマネージャー 北野浩之、マネージャー 小林洋子、コンサルタント 小林健太郎の3者が担当する。

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