ー産業医から元気に働くためのアドバイスー
現在、新型コロナウイルス感染対策の中で、新しい働き方における健康を保つための工夫がよりいっそう大切になってきています。
そこで、東京商工会議所では、計7回にわたって、働き方の新しいスタイルにおける「こころの健康」を保つコツについてご紹介していきます。
※本記事は、日頃から人事・総務担当者や管理職、労働者からの様々な相談に対応されているヘルスデザイン株式会社の坂本先生(産業医・労働衛生コンサルタント)に執筆にご協力いただいています。
前回は、管理職による在宅勤務中の部下への対応(ラインケア)の3つのポイントを確認しました。
※前回記事はこちら
それは、
- いつもの部下の様子と違うことに気づく
- 部下に声をかける
- 話を聞く(傾聴する)
というものでした。
今回は、そのポイントに基づいて、管理職による実際の対応を一緒に見ていきたいと思います。
後半では、セルフケアの基本として、生活リズムを整えるポイントについてご紹介します。
管理職による実際の対応とポイント
ー営業支援部 A課長の悩みー
今年の4月に中途採用で入社してきた部下のZさん(30歳、男性)が心配です。
コロナウイルス感染拡大防止のために、2020年4月からは一気に在宅勤務が進み、4月と5月は、毎日が在宅勤務となっていました。
現在は、週3日が在宅勤務、週2日が実際の出勤日ですが、Zさんは出勤日には頭痛や腹痛等の理由での欠勤がしばしば目立っています。
管理職としてZさんに仕事の負担をかけていないつもりですが、今後どのように対応していけば良いかわかりません。
<対応のヒント>
ラインケアの3つのポイントに基づいて、部下のZさんに対応していきます。
ポイント1 いつもの部下の様子と違うことに気づく
Zさんが中途入社した矢先に在宅勤務が一斉に始まったため、同僚同士のコミュニケーションが取りづらい状況になっていました。
さらに、A課長も在宅勤務中の部下の状況を把握できていなかったため、Zさんの困りごとに気づかず、早期発見がやや遅れてしまったかもしれません。
ポイント2 声をかける=タイミングを逃さずに!
今回はすでに勤怠に影響が出てきています。これは明らかにいつもの部下の様子と違うというサインです。
管理職として様子を見ることなく(放置することなく)、部下のZさんに声をかけることが先決です。
面談の際には、「大丈夫?」と単に聞くだけではなく、「最近疲れているみたいに見えるけども・・」や「最近休みがちであることが心配なのだが・・」などと、管理職として気になったことを率直に伝えるようにしましょう。
ポイント3 話を聞く(傾聴する)=相手を尊重して、聞き役に徹する
話を聞く際に大切なことが「傾聴」でした。管理職として助言したくなる気持ちはまずは抑えて、相手の思いを尊重しながらじっくり聴いていきましょう。
部下は助言を求めているのではなく、まずは聴いてほしいのです。丁寧に話を進めていきましょう。
これらを踏まえると、実際の対応の例は以下のとおりです。
A課長「最近、Zさんが休みがちなので、管理職として心配しています。何か困ったことがあれば教えてくれない?」
Zさん「・・・・。実は、4月に中途入社で入ってきたのですが・・、仕事の勝手がわからず、今までの仕事の経験を生かそうと思って取り組んでいたのですが、どうにも上手くいかなくて・・。」
A課長「仕事の勝手がわからず、経験を生かして頑張ろうとしていたけども、上手く仕事が進まなかったのですね。なるほど・・。」
Zさん「はい・・。職場の同僚に相談しようと思っていても、在宅勤務が急に始まったので皆と顔を合わせたことがなかったので、相談しづらくて・・・。」
A課長「職場同僚と顔を合わせたことがなくて、相談しづらかったのですね。」
Zさん「そうなのです、実は、・・・(続く)。」
いかがでしょうか。
ラインケアは管理職による部下への対応の始まりです。
管理職一人では解決できないこともあるかもしれません。
その時は、管理職一人で抱え込むことなく、自分の上長に相談したり、産業医や保健師に相談したり、医療機関につなぐことを考えていきます。
以上、ラインケアの具体例についてご紹介しました。
傾聴を織り交ぜながら、部下と話をすることを心がけてみて下さい。
生活リズムを整えるポイント
次に、セルフケアの基本である、「生活リズムを整える」ということをご紹介します。
これは第1回のコラムでも簡単に触れましたが、とても重要で基本的なことなので確認してみて下さい。
※第1回コラムはこちら
在宅勤務では、
- 仕事のオンオフがつけられない、そのため夜や休日に仕事をしてしまう
- 通勤時間がなくなったため、夜更かしや朝寝坊をしてしまうなどのように生活リズムが乱れやすくなってしまう
という状況があります。
生活リズムの乱れは、疲労の蓄積につながり、こころの健康に影響してきますので改善が必要です。
<改善のヒント>
▢いつも通りの時刻に起床就寝をするようにしましょう
朝に太陽の光を浴びることによって生体時計がリセットされます。
私たちの体の生体時計は、24時間よりも長いため、遅く寝て、遅く起きるという生活に少しずつシフトしてしまう傾向があります。
それを直すためには起床後に窓の近くや外に出て、できれば15分ほど太陽の光を浴びるようにしましょう。
曇りの日でも雨の日でも大丈夫です。なお、部屋の電気では照度が足りませんのでご注意を。
▢在宅勤務でも、着替えを行って仕事のオンオフのメリハリをつけます
▢始業前や終業後にウォーキングをすることもおすすめです(運動不足解消にも繋がります)
▢仕事中は小休止の目安となるアラームをセットして、うまく小休止とりましょう
▢仕事が終わったらPCは机の上から片付けましょう
これらの工夫を参考にして、自分の生活リズムを整えていきましょう。
以上、管理職による部下への対応(ラインケア)の例と、生活リズムを整えるためのヒントについてご紹介しました。
次回(第5回)は、在宅勤務中に実践したいセルフケアの具体例(良い睡眠の取り方など)をさらにご紹介していきたいと思います。

産業医科大学を卒業し、臨床医の経験と専属産業医(製造業)の経験を生かして、より多くの中小企業で働く方々の健康を支援するために、様々な業種や規模の嘱託産業医として活動している。
活動内容は産業医業務に加えて、小規模企業でも健診結果の確認や教育セミナーを開催し、健康管理を行っている。専門は中小企業での健康支援と産業保健マーケティング。
日本産業衛生学会評議員、日本産業ストレス学会理事、さんぽ会幹事。
資格:産業医(指導医)、公衆衛生学修士、博士(医学)、労働衛生コンサルタント(保健衛生)、健康経営エキスパートアドバイザー
ヘルスデザイン株式会社
https://health-d.co.jp/corporate/
<この記事に関連するサイト>
健康経営倶楽部|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/kenkokeiei-club/