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【ナッジで行動を後押し】第1回「人を動かすきっかけをデザインする」

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※本記事は、東商新聞  3月20日号より連載したコラム【ナッジで行動を後押し】をWEBページ用に再編・掲載しています。


突然だが、カフェでコーヒーを選ぶ場面を想像してほしい。
図1の左と右ではサイズ、価格は同一であるが、2種類と3種類の大きさを提示された場合、どのサイズを選択するだろうか。

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または、ホテルに連泊する際タオルの再利用を促された時、図2のどのメッセージであれば再利用したいと思うだろうか。

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実際にカフェの事例では、2つの選択肢を提示するとSサイズが多く選ばれるが、3種類だとMサイズが選ばれやすい。
またホテルの事例では、再利用率が左から順に37.2%、44.0%、49.3%と高くなっていくことが、それぞれ学術的に確かめられている。

このように、心理学や行動経済学において明らかになってきた人間の行動原理に基づき、行動のきっかけを提供する手法を「ナッジ(Nudge)」と言い、現在、国や地方自治体の政策、民間企業のサービスを問わず、様々な分野で導入されつつある。

前述の具体例のように、人は客観的にみると不合理な(損な・誤った)選択を知らぬ間にする。
その前提に立った経済モデルの研究分野を「行動経済学」と呼び、2017年の米国シカゴ大学のリチャード・セイラー教授のノーベル経済学賞の受賞などで広く知られるようになった。

ナッジ(行動経済学)の広まりは、海外が先行している。
例えば、2010年英国キャメロン首相が内閣府に「行動インサイトチーム(BIT、通称ナッジユニット)」を設置。14年には米国オバマ大統領の指示で「社会および行動科学チーム(SBST)」が、16年には「オーストラリア政府行動経済学チーム」がそれぞれ発足しており、納税やマナー向上、環境行動、健康のための生活習慣の改善などを狙って広く導入が進んでいる。

民間でも、顧客行動に関するナッジ・マーケティングや従業員のエンゲージメントや行動に活かすナッジ・マネジメントが盛んだ。
日本でも遅ればせながら、環境省のナッジユニット設置、明るい社会保障改革でのナッジへの言及、自治体では横浜市のYbit設置などの取り組みが始まっている。

ナッジが注目される理由として、人間の不合理さを前提とした実践的な手法であることや、大きな費用をかけることなく伝え方や表現の工夫だけで成果を上げられることなどが挙げられる。
冒頭で紹介したカフェの事例では同じ量で同じ金額であるにもかかわらず、3つあると真ん中を選ぶ傾向(極端の回避)や、ホテルの事例では自分と同じ「この部屋」に泊まった人が選んだ選択肢を選ぶ(社会規範)現象が、不合理さを示している。

このナッジは、適切に利用することで極めて費用対効果の高い成果を挙げることが期待される反面、個人の選択の自由を、本人が知らぬ間に奪う危険性も併せ持つ
そこで次回以降、ナッジを中心とした行動デザインの考え方や利用シーン、方法などを紹介する。

 

【執筆者プロフィール】
北野 浩之

NTTデータ経営研究所・シニアマネージャー
※本連載は同研究所シニアマネージャー 北野浩之、マネージャー 小林洋子、コンサルタント 小林健太郎の3者が担当する。

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