東京商工会議所では、新型コロナウイルスが感染拡大する中、企業での対策に活用できる情報として、産業医有志グループ(※)より提供される「企業向け新型コロナウィルス対策情報」を配信(不定期)しております。
※本対策情報は、産業医有志グループ(今井・櫻木・田原・守田・五十嵐)が作成し、厚生労働省新型コロナウイルス対策本部クラスター対策班・和田耕治先生(国際医療福祉大学・公衆衛生学教授)のサポートも受けたものです。詳細は本ページ下部の「文責」をご覧ください。
経営者・総務人事担当者のみなさま、職場の感染対策は万全でしょうか?
今回は職場の感染リスク管理について、スイスチーズモデル(スイスチーズをモチーフとしたリスク管理の考え方)をベースに考えてみたいと思います。
1.課題の背景
職場の中で、「マスクさえつけていれば社会的距離は不要だろう」、「社会的距離が確保できていればマスクは不要だろう」、「換気をしているから多少社会的距離が近くても大丈夫だろう」と言った声が出ていませんでしょうか。
効果的な職場の感染リスク管理のためには、どこまでの対応をとればよいのでしょうか?
このような疑問に対して、スイスチーズモデルを基にした職場の感染リスク管理の考え方につき解説いたします。
2.事業所でできる対策
1)スイスチーズモデルについて理解する
2)職場の感染リスク管理をスイスチーズモデルで考える
3)職場の感染リスク管理につき、従業員に周知徹底する
1)スイスチーズモデルについて理解する
スイスチーズというのは、チーズの中でも内部にボコボコと穴が開いているチーズのことで、スイスチーズモデルではそのチーズを薄切りにしたものを何枚も重ねた状態をイメージします。
内部に穴が開いているとはいっても、その穴は不規則なものです。
一つ二つを重ねたとしてもどこかの穴は重なるかもしれませんが、枚数を重ねるうちに隙間が埋まっていくため、徐々にその穴が最後まで通じる可能性は低くなるでしょう。
リスク管理においても同様に考えて、1つの考えに基づいた防護壁では事故(穴が最後まで通じてしまうこと)が起こる可能性が高くても、異なる視点からの防護壁を複数組み合わせることでその安全性は高まっていきます。
1つでは完璧な防護壁はなくても、いくつも重ねることで完璧に近づいてくだろうというのがスイスチーズモデルです。
2)職場の感染リスク管理をスイスチーズモデルで考える
それでは、職場の感染リスク管理をスイスチーズモデルで考えてみましょう。
ここでは隙間が最後まで通じてしまう状況を職場の集団感染ととらえます。
それを防ぐための防護壁として、「マスクの着用(Face Covering)」、「社会的距離の確保(Safe Distancing)」、「従業員の症状チェック(Symptom Checking)」、「定期的な職場の換気(Ventilation)」などを考えます(下図を参照のこと)。
「マスクの着用」だけでも効果は高そうに感じますが、職場で終日過ごすうちに、いつの間にかずらしてしまったり、外してしまったりすることもあるでしょう。100%の着用を従業員に求めることは難しい部分もあるかと思われます。
そこで、不適切なマスク着用による隙間を埋めるための別の防護壁が必要になるという訳です。
同様に「社会的距離の確保」だけでも効果は高そうですが、職場で終日過ごす中で常に2mの距離を保ち続けることは困難でしょう。何かの拍子に距離が近づくことは当然起こりうる話です。
「従業員の症状チェック」でも必ずしも正しく従業員が症状を申告しない可能性、「定期的な職場の換気」でもうっかり換気をし忘れることなど、単独で隙間がない防護壁を期待することは難しいでしょう。
このようなことから、単独の対策だけで十分ということはなく、いくつかの対策を重ねていくことで職場の集団感染リスク管理がより効果的なものになる(隙間が埋まっていく)ということが言えるでしょう。
とはいうものの、やみくもに防護壁を重ねるのは避けた方がよい場合もあります。
例えば、流行が落ち着いている地域において、マスクとフェイスシールドの着用を求める場合など、防護壁を重ねすぎることで熱中症など他のリスクを招いてしまうこともあります。
状況に応じて重ねる防護壁の数や内容を検討してみることも重要と言えます。
3)職場の感染リスク管理につき、従業員に周知徹底する
いくら経営者や人事総務担当者が職場の感染リスク対策を進めようとしても、肝心の従業員が感染リスク管理の考え方を理解してしないと隙間が大きくなってしまうかもしれません。
筆者自身も嘱託産業医として契約企業での職場巡視を行う中で、打ち合わせなどで社会的距離が確保できていない状況、マスクを着用できていない状況を見かけることがしばしばあります。
このような場面では、従業員が単独の対策を過信している状況(「1.課題の背景」で述べた状況)も垣間見えます。
従業員の一人一人が感染リスク管理に対して共通の認識を持つことも、隙間を埋めていくのに非常に大事な要素となります。
ぜひ今回のスイスチーズモデルも活用しながら、従業員に対して職場の感染リスク管理の考え方につき周知徹底していきましょう。
<関連情報リンク>
(1)「スイスチーズモデル」って知ってますか?(シンク出版)
(2)スイスチーズモデルで組織事故を考える(リスクの眼鏡)
(3)The CIC COVID-19 Safety Plan(Tim Rowe)
OHサポート株式会社 代表・産業医
※本文章は、産業医有志グループ(今井・櫻木・田原・守田・五十嵐)で作成しました。
厚生労働省新型コロナウイルス対策本部クラスター対策班・和田耕治先生(国際医療福祉大学・公衆衛生学教授)のサポートも受けております。
OHサポート株式会社(代表/産業医 今井 鉄平)では、経営者・総務担当者向けに必要な感染拡大防止策情報を随時配信しています。
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また、動画配信も順次行っております。https://www.youtube.com/channel/UC4lRPnKfYPC6cT1Jvom5VbA
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<この記事に関連するサイト>
企業向け新型コロナウイルス対策情報一覧|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/kenkokeiei-club/covid-19/
健康経営倶楽部|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/kenkokeiei-club/