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【連載】渋沢栄一の言葉~著書から読み解く“不変の「王道」”

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東京商工会議所の初代会頭であり、500を超える企業の設立に関わった渋沢栄一は、実に多くの言葉を残してきました。現代の経営においてもその言葉は力を持ち、不変の王道として、たゆまなくその意志をつなぐことが求められているのではないでしょうか。
このコーナーでは、東商新聞  で連載中の「渋沢栄一の言葉」を、順次紹介していきます。


正しい道理の富でなければその富は完全に永続することができない。
従って、論語と算盤という懸け離れたものを一致させる事が
今日のきわめて大切な務である。

【論語と算盤】:『論語と算盤は甚だ遠くして甚だ近いもの』より


今から百年ぐらい前、渋沢栄一が提唱した「論語と算盤」を現在の言葉で表現すれば、それはサステナビリティ、つまり、持続性ではないでしょうか。

算盤勘定ができなければ、当然ながら持続性はありえません。
ただ、算盤だけを見つめていると、つまずいてしまうかもしれない。
一方、論語だけを読んで「お金儲けは卑しい」と固持するようでは何事も新しいことが始まらない。
新しいことが始まることなければ持続性はありえません。

「論語と算盤」で最も重要な文字は「と」だと思います。
「論語か算盤」ではありません。
栄一の言葉を読み返すと、論語(道徳)のために算盤(商工業)を犠牲にせよという教えを見受けません。
むしろ、企業が持続的に繁栄するには信用力を高める必要がある。
その信用力を高めるには道徳観を育む必要があるという関係です。


「か」は物事を整理するためには便利ですが、それだけでは新しいものが生まれません。
一方、「と」は一見相容れない矛盾を合わせて新しいものを生むことです。
道徳的資本主義とは、単に「良いことをしましょう」という思想ではない。
答えがない世の中で、問い続ける「想像力」によって、新しいものをつくる「創造力」の実践です。

(東商新聞2015年5月20日号 掲載)

 

その経営者一人がいかに大富豪になっても、
そのために社会の多数が貧困に陥るようなことでは、
その幸福は継続されない

【論語と算盤】:『合理的の経営』より

 

企業の経済活動によって、富が世の中で生まれます。
ところが、その富を利己的に抱え込むと、結局的に自分自身の幸せが長続きしないという警告です。
やはり、世の中に循環するからこそ、「お金」が「資本」となる。
これが、資本主義という思想の根源でしょう。

別のところで別の人が、このようなことを言いました。
「富が公平に分配されないことによって社会や経済が不安定となる。」
栄一の考えと、ほぼ同じ課題が資本主義にあるという主張です。

この人は、フランスの経済学者のトマ・ピケティ。
去年、日本でも同氏の「21世紀の資本」という書籍が大きな話題を呼びました。
21世紀型の資本主義の社会的課題は、栄一が暮らしていた19世紀後期・20世紀初期の資本主義でも存在していたのです。

ただ、二人の問題定義は同じですが、解決策は異なります。

格差を是正するために累進課税の富裕税を、理想的であろうが、世界的に導入すべきというがピケティの主張です。
富の再分配の役目は政府が果たすべきという考えです。

一方、栄一の考えは、論語(道徳)と算盤(経済)の合致により、民間力主導による豊かな世の中を皆のために、皆でつくろうという思想でした。
これも理想的かもしれません。

しかし、どちらの理想が幸せな世の中を導くのか。
皆さんは、どのようにお考えでしょう。

(東商新聞2015年6月20日号 掲載)

<この記事に関連するサイト>
渋沢栄一 特設サイト|東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/shibusawa/

 

渋澤 健(しぶさわ けん)
【執筆者プロフィール】
渋澤 健(しぶさわ けん)

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役
コモンズ投信株式会社取締役会長

<略歴>
複数の外資系金融機関でマーケット業務に携わり、2001年にシブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業し代表取締役に就任。07年にコモンズ株式会社(現コモンズ投信株式会社)を創業、08年に会長に就任。経済同友会幹事およびアフリカ開発支援戦略PT副委員長、UNDP(国連開発計画)SDG Impact運営委員会委員、東京大学社会連携本部顧問、等。著書に「渋沢栄一100の訓言」、「SDGs投資」、「渋沢栄一の折れない心をつくる33の教え」、他。

シブサワ・アンド・カンパニー
http://www.shibusawa-co.jp/index.htm